訳アリなの、ごめんなさい
ノードルフ侯爵邸を暇して、帰路に就いた頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。

しばらく考えて事をしながら歩いていたが、少し後ろに何者かの気配を感じて、神経は一気にそちらに集中した。

試しに歩く速度をわずかに早めてみる。やはり気配も速度を早めてきた。

どうやら本当に着けてきているらしい。

ゆっくりと本当は曲がるはずでない路地をひとつ入る。
それを追うようにその、気配も路地を曲がってきた。


素人め
もう少し上手くやればいいものを

「私に何か用か?」

素早く腰の剣を抜き取り、路地を曲がってきた男の顎先に切っ先を向ける。

流石に相手も、それなりの反射神経で止まった。

良かった、もし気づかずに自ら飛び込んできたら図らずとも串刺しにしていたところだった。


切っ先にひるんだのか、両手を上げて固まった状況になっている男を観察する。

大きな身体の男だった。
暗闇でよく顔はわからないが、唯一光って見える双眸は、恐怖を感じているのだろう切っ先から目を離せないでいる。


「何やつだ。なぜ私をつける。目的はなんだ」


低く唸ると相手がゴクリと唾を飲む音だけがした。口を開くつもりはないらしい。

「答えんか?悪いが俺は今気が立ってる。加減はできんぞ」

チリっと切っ先を動かすと、男が逃げるように一歩下がる

「ほぅ逃げられると思うのか?貴様が背を向けた瞬間に俺は斬りかかるぞ?」

そう言って男の顎に少しだけ切っ先を当ててやる。

「誰の差し金だ、それだけ答えたら逃してやる。言っておくが誤魔化しても分かるぞ。」

自分でも驚くほど低い声が出た。

男の喉が振動するのが分かった。

「ぅ、、ウェルシモンズ」


彼が絞り出すように言った言葉は、やはり予想通りで、言葉を発すると同時に、男は逃げ出した。



静かに男の姿を見送ると、ゆっくり剣を収める。

あの男、困窮している割に人を雇うことができるのか。

自分をつけていたのか、ノードルフ侯爵邸を見張っていたのかどちらだろうか。

捕まえることもできた、しかしそれをしたら騒ぎが明るみに出る可能性がある。

できる事なら、あの男を引きずってウェルシモンズ邸に乗り込み、彼女に何をしたのか洗いざらい吐かせて、同じように、いやそれ以上にいたぶってやりたいくらいなのだ。


しかし、それをしてしまったら自分は確実に任を解かれ、戦果で決まっていた叙勲の話も流れてしまう。そうなれば、いったい彼女を誰が守るのだ。

自分に言い聞かせて、ゆっくりと王太子宮に向かって歩き出した。
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