訳アリなの、ごめんなさい
ノロノロとできるだけ時間をかけてシャワーを終えて、着替えを済ませた。

リラが、用意してくれてあった着替えを着てみて、その段になって、やはり今日、私は彼に抱かれるのだと再認識させられる。


こんな脱がせやすい寝巻きがあるのか、、、。


彼女を責める事はできないだろう。
初夜とは一般的にそういうものなのだ。

バスルームから出ると、騎士の制服のジャケットを脱いだ彼は、ベッド脇のテーブルの前で長い足を組んで、読書をしていた。


「ようやく出てきたか」

わたしの姿を認めると、本を閉じて軽い身のこなしで立ち上がる。

バスルームの扉の前で固まる私に近づいて来て、じっくりとわたしの姿を眺める


「ドレスもいいけど、こういう姿を見られるのは感慨深いな」

おどけたように笑われて、私は恥ずかしさと、気まずさで、彼から視線を逸らす。


「貴方は、シャワーは?」

「宿舎で済ませた。」
伸ばされた手がわたしのまだ少し湿った髪に触れてさらりと流れて首筋を撫で、私は思わず首をすくめる。

くすりと彼が笑って、首の後ろに回された手が私を彼の胸に引き寄せた。


固いけど、弾力のある胸板に頬をおしつけられ、規則正しい、、少し早めの彼の鼓動が心地よく脳に響いた。

はぁっと耳元で、彼が息を吐く。

「ようやくここまで来た」

安堵したような、感慨深げな声が少し湿っぽい色を含んでいて、こわばった私の身体から少し力が抜けた。


今までの彼の強引で余裕のある姿勢とかけ離れていて、不思議に思って見上げると

慈しむように私を見下ろす彼がいて、その表情はどこか泣きそうだった。


胸の奥を締め付けられるような痛みを覚えて、それでも彼から目を離せないでいると、突如として膝裏に手を回され、身体を持ち上げられる。

あっと慌てて咄嗟に彼の首にしがみつく

寝巻きの裾がはだけ、その隙間から太腿がのぞいている。

慌てて整えようとするものの、彼の首から手が離せなくて、でも恥ずかしくて、目を瞑る。

 
そんな私の身体は、彼によってすぐに軽々とベッドに下ろされてしまう。

慌てて裾を引っ張って、太腿を隠したわたしの上にブラッドが押し掛かってきた。

恥ずかしくて、こんな時どうしたらいいのか分からなくて、彼から目を逸らすと、彼はそれを抵抗と取ったのだろう。

なだめるようにわたしの額から髪、そして頬に手を滑らせる。

「色々性急で、すまなかったな。いつか時がきたらきちんと話す。」

思いかけない言葉に私は驚いて彼を見上げた。

私の知らないところで、何かがあるのだろうかという、疑念はずっとあった。それが今、核心に変わった。

そうでなければ、叔父叔母や殿下夫妻がこんな強引な結婚に加担するはずがないのだ。

涙がじわりと溢れ出す。

やはりわたしは彼に迷惑をかける事になるのだろう。婚姻をしてしまった以上それは避けられない。

この愛しい人を悲しませることになる。

「泣かなくていい、アーシャ、俺が守る、守るから。一人で苦しまないでくれ」

涙を指で拭った彼が、掻き抱くように私を抱きしめる。陽だまりのような香り、そして暖かくて、力強くも優しい手の感触。

愛おしい彼のぬくもり



違う、ちがうの

心の中で叫ぶ

私は貴方の足を引っ張って、その上幻滅されて捨てられてるのが怖い。

こんな汚い私を妻とした事を貴方に後悔されるのが怖い。


ギュウギュウと苦しいほどに抱きしめてくれる、この温もりをいずれ手放すのが怖い。
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