訳アリなの、ごめんなさい
目を覚ますと、ブラッドの腕の中にいて、彼の手が私の背中をゆったりとなでているのに気がついた私は勢いよく跳ね起きる。

「すまない起こしたか」

あまりにも唐突に私が顔を上げたから、彼は目を丸くして固まっている。

「背中ッ」

「くすぐったかったか?」
彼は、少しすまなそうに首を傾けて、背中から手を離した。


「そう、じゃなくて!傷が!」

そう、私の背中には無数の鞭傷が凹凸を作っている。お世辞にも綺麗とは言い難いそれが、知らぬ間に彼に触れられていた事に私は慌てて、そして怖くなった。

こんな傷のある女を妻にした事を、彼は後悔したのではないか。


「傷?あぁ、」

少しだけぽかんとした後に、彼は笑った。
背中を撫でていた手が、するりと腰に回され、いとも簡単にくるりとうつ伏せにされて、私は小さく悲鳴を上げる。


その段になって自分が一矢纏わぬ姿だという事を思い出したが、もう遅い。

わずかな朝日の入る薄明かりの部屋の中、私の背中がしっかりと彼の前にさらされた。

羞恥で、思わず身体を縮める。
気持ち悪い、醜い、痛々しい、どんな言葉が彼の口から出てくるのか、怖くて耳を塞ぎたい。

「傷だな。気にしなくていい、俺もあちこち傷だらけだ」

しかし、彼から降ってきた言葉は、なんでもないような言葉だった。
たいして拘っている様子もなく、今度は自分の肩や腰にある傷跡を指差した。

行為の最中は、暗がりでそんな余裕もなかったが、確かに彼の身体にも大小さまざまな傷跡が見られる。

彼はそのいくつかを指差しながら、これは殿下を咄嗟に庇った時の傷、これは酔って喧嘩をした同期を止めに入って突き飛ばされて転んだ先にたまたま割れた瓶があって刺さった時の傷、などと説明を始めた。

深刻だったであろう傷も、少し間抜けな由来の傷など様々で、つい私は彼の傷痕を眺めながら話を聞いてしまっていた。

「俺自身が傷だらけだし、宿舎なんて、ごっつい傷持ちの男達が上裸でウロウロしてるんだぞ?今更ちょっとやそっとの傷痕を見ても俺は何とも思わないから、無理に隠さなくていいよ」

そう話を締めくくり、彼は私の背中につっと指を這わせた。
途端に私はビクリと身体をゆらして息を飲む。


「まぁ、でも。傷になるまでお前に手をあげた事実はあるわけで、それについては、ますます奴らを殺したやりたくはなるんだけどな」

低い声で彼は唸る。口調は軽いがその中には明確な怒りも感じられるのに、傷跡をなぞるように彼が唇を這わせたので、私は深く考える事が出来ずに背を震わせる。

「あっ」

咄嗟に甘い吐息を漏らすと、ウエストの辺りで彼がクスッと笑うのが分かった。

「背中も弱いんだな」



「やめてぇ、あぁ」

楽しそうに傷に沿って彼が唇を這わす。くすぐったいのと、腰の奥の方からざわざわするような感覚が上ってきて、私は甘い息を吐きながら、背をのけぞらせた。

「あまりそんな声をあげられると、もう一度したくなるな」

熱のこもった吐息まじりの声で耳元で囁かれて、私はえぇ!?と声を上げた。

途端に首のすぐ裏辺りでクスクスと彼が笑いだした。

「冗談だよ、まだ身体辛いだろう?おいで。もう少し寝よう」

そう言って、シーツごと巻きつけられて彼の胸の中に抱きしめられる。



「痛かったな、あまり加減が出来なくてすまない」
よしよしと、子供をあやすように頭を撫でられて、私は小さく首を振ると、彼の胸の音を聞きながら眠りについた。
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