訳アリなの、ごめんなさい
任務の合間に愛しい妻アリシアの部屋に向かうと、彼女はソファに腰掛けてぼんやりとしていた。 



いつも何かしら忙しくしている彼女には珍しいなと眺めていると、ようやく夫の来室に気がついた彼女は、弱々しい笑みを浮かべた。

「どうした?何かあったのか?」

体調でも悪いのだろうか、もしくは辛い事でもあったのだろうか

慌てて駆け寄って、彼女の前に膝をつくと、肩を包み込んで愛しくてたまらない妻の顔を見上げる。

顔色は悪くなさそうだ。
こちらをみつめる彼女の瞳が少し驚いたように見開かれる

「だ、大丈夫よ!ごめんなさい。ちょっと考え事をしてたの」気持ちを引きずっちゃっただけ、、、そう言って彼女は手を伸ばして俺の頬に触れた。

「休憩時間?」

「あぁ1時間ほどな!」

アリシアが隣の席を空けてくれたので、隣に座る
ついでに彼女の膝裏に手を差し込み、膝の上に横抱きにした。

「ひゃあ」と驚いたように声を上げたが、そのまま捕まるように首に手を回してきた。

自然と顔が近くなり、どちらからともなく啄むような軽い口づけをした。

「どんな考え事だったんだ?」

口づけをやめて、抱きしめる。
囁くように耳元で聞けば、彼女はくすぐったさに「ふぅっ」っと首を竦めた。

「そんな大したことないじゃないの」


身体を離した彼女の瞳は少々潤んでいて、頬は赤く染まっている。
あぁこのまま抱いてしまいたい。
任務中で有るのが本当に惜しい。
明日の任が解けたらすぐさま来よう。
そう心に決めた。



彼女から見せられた継母からの手紙を読み、心の底から安堵の息が漏れた。

それと同時に彼女を引き寄せて、抱きしめる。


これでもう、彼女を怯えさせる事はない。

あとは、少しずつ彼女の傷を癒していく。自分のそばで生涯をかけて


「よく頑張ったな」

頭を撫でてやれば胸の中で彼女がくすんと鼻を啜ったのが分かった。


ずっと一人で耐えて、一人で抱えていくつもりだったのだろう。

結婚しても彼女がいつか自分の前からいなくなるのではないかという恐れは、ずっと抱いていた。

もう荷を下ろして、安心して過ごしてほしい。
そう願ってきた。




「その手紙は、俺が預かろうか?手元に置きたくないだろう?」

少し彼女が落ち着いて顔を上げた時、そう告げると、彼女は迷った顔をした。

「こんなものを預かる俺の気分を心配しなくていい。明日は非番だからノードルフ卿に報告ついでにこれも預かってもらうよ。」

「おじさまに?」

不思議そうに見上げた彼女に頷く。

「ウェルシモンズ家との件は全て弁護士に任せているみたいだから、一応これも渡しておいた方がいい」

そう告げると彼女はあぁ、と理解したように目を瞬いた。

「じゃあお願いするわ」

手紙を受け取り、懐にしまう。
明日の朝でもいいのだが、少しでも彼女の手元には置いておきたくなかった。


「多くの人に助けられていたのね」

彼女がポツリと溢す。

その髪を梳いて、口付ける。

「みんな君を愛してるからな。だから君が1人で辛い思いをしていると、みんな辛い。アーシャだってそうだろう?」



「そう、、、ね。私、1人で戦ってる気分だったのよね。本当ならもっと早く叔母様に助けを求めても良かったのに、そんな事なぜか考えられなくて。その後も、早く自立しなきゃって、、、」

「仕方ないさ、異常な環境だったんだから、戦場もそうなんだ、後から思えばもっといい方法はあったのだろうけど、やはり異常な環境はどこか人の心の視野を狭くする。」


しばらく目をパチクリした彼女は、突然ふふっと笑い出した。


「訓練を受けた屈強な戦士もそうなら、ただの小娘の私がそうならないわけは、ない、わね、、、」
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