訳アリなの、ごめんなさい
ラングラード邸が完成して、私たち夫婦が住まいでの生活をはじめた頃には冬が本格的に訪れていた。


暖炉の薪がパチパチと爆ぜる音を聴きながら、私はソファでうとうととしていた。


ひやりと、唐突に額に冷たい物を押し当てられ、ぼんやりと意識が覚醒した。



「ブラッド?」

「すまない!起こしてしまったか」

ひんやりとした物はどうやら彼の手であったらしい。先程まで外で稽古をしていたから、きっとそこから戻ったばかりなのだろう。

いつも熱いくらいの彼の手があれほど冷たいなんて、、、外はずいぶん寒いのだ。

その手を取って両手で包むと胸の上に開いたまま置いていた本の上に載せる。

「妃殿下の、、、か?」



チラリと本の背表紙に視線を移した彼は、私が何をしていたのかを理解したらしい。

「そう、、そのつもりだったのだけど、つい眠たくなっちゃって」

実は、先日妃殿下の懐妊が分かったのだ。
王太子殿下はもちろん、殿下のお母上である王后陛下や国王陛下も随分とお喜びだ。

しかしそれゆえに王太子妃殿下の周囲には緊張が走っている。万が一の事があってはならないという事で、ご体調から御身の安全まで細やかな気配りがされている。

特に妃殿下のそば近くに支える身だ。
きちんと妊娠についての知識を持っていなければと思って読み始めたのだが、どうやら寝ていたらしい。


「読めば読むほど、妊娠って神秘的だわ」

起き上がって、ブラッドに隣を勧めると、彼も隣に座って、本の中身を覗き込んできた。


「悪阻?」

「そう、このところセルーナ様は常に眠そうなの。それに少し香水の香りが気になるって言ってたから、多分これよね?」


「眠いのも、妊娠の兆候なのか?、、、アーシャももしかして!」

ブラッドの期待するような言葉に、私はくすりと笑う。

「ふふ、違うわよ!数日前に月のものが終わったばかりじゃない」

そう言って否定するけれど、ブラッドは私の腹に手を添えてゆったりと撫でる

「いつかここに俺たちの子供が来るかもしれないのだな」

「もしかしたら、ね?」

そう言えばあまり考えた事がなかった、、、わたしがいつか母になる日がくるのだろうか。


考えていると、不意にギュッと抱きしめられる。

「待ち遠しいけど、まだしばらくの間は2人でいいな」

「?」

「子供に君をとられてしまいそうだから」

「ふふふ、そうかもしれない」


互いに笑あって、どちらからともなく唇を重ねた。
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