燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
少しして大熊さんが口を開く。
「こんな時に……辛い質問ですまないが、相手の男の顔は思い出した?」
「それが、モヤがかってるみたいにはっきりしなくて」
「そうか」
「ごめんなさい」
「つばめちゃんが謝ることじゃない」
そう言うと、麗子先生はあたしをもう一度抱きしめなおした。
あたしはその後のことも少し思い出していた。
最初にあたしを保護したのは、大熊さんで。
それからすぐやってきたのが天馬先生。
「あのとき……拓海が見たことない顔してた」
あたしはそれが怖かった。
いつも優しい彼が全然違う人みたいで。
「……」
麗子先生は黙り、部屋は沈黙に包まれた。
次の瞬間、大熊さんが口を開く。
「その当日、朝に一緒につばめちゃんと出掛けったって男がいて、天馬はそいつが犯人だと思った」
「大熊さん」
止めるように麗子先生が言うが、大熊さんは気にせず続ける。
「ものすごく怒って収集つかなくてね……。殺しかねないと思った。実際違ったから事なきを得たが……」
「大熊さん!」
「黙っていてくれ。今、この子と話してるんだ」
大熊さんはまっすぐあたしを見る。「それも含めて、思い出したいと思ったから俺に聞いた。そうだろ?」
「……はい」
あたしは頷く。
「きみには、きっと自分の心より大事なものがあるんだろ」
そう言われて、あたしが走ってまで大熊さんを探したことを思い出す。
そうか、と思ったとき、大熊さんは苦笑する。
「きみ、天馬と似てるよ。突っ走るところが。似たもの夫婦ってやつだな」