燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~


 あたしはその日、帰ってきた拓海を見て、なぜか目をそらしてしまった。

 あの日のこと思い出したことで、拓海にどう接していいのかわからなくなっていた。
 きっと何もないふりして毎日をやり過ごすのが一番なのかもしれないけど……そんな器用なことはあたしにはできなかった。


「おかえりなさい」
「うん、ただいま」

 そう言った後、拓海はすぐにあたしを覗き込み、どうしたの? という。

「ううん」
「いつもなら飛びついてくるのに」
「……え」

 そういえば、そうよね?

 でも不思議なの。
 襲われたことを思い出してから、男の人に触れるのも、触れられるのもできなくなっていた。


 拓海は大丈夫だって思ってたけど、
 拓海の顔を見て、拓海に触れるって、思っただけでもだめだった……。

< 194 / 350 >

この作品をシェア

pagetop