燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
「彼女の様子はどうだった。目が覚めた時は、本当になにも覚えてない様子だったが……」
「それが……」
私は口を開く。
そして彼女がいま、中学生までの断片的な記憶しかないことを話した。
「そのころは、まだ私とも会ってないから……私も自粛しようかと」
「ご両親は?」
「相当ショックを受けられていて、特にお母さまが……。天馬が『つばめさんは今あの事を覚えていないし、色々忘れている。もう思い出させないようにしないか』と言い出して。だから余計にご両親と一緒にいるとお母さまから何か感づいてしまいそうなので、天馬がつばめちゃんの面倒を見ると言い出しました。自分なら彼女の前で表情は隠せるって」
「そうか」
「本当に……あいつは一体、これから、どうするつもりなんでしょう」
「心配?」
「天馬は幼馴染ですから。つばめちゃんのことも私はずっと見て来たし……心配しないはずありません」
「……」
私は自分の両手を強く握りしめ、
「ふたりとも、これまでずっと必死にやってきたんです。しかも全部自分のためなんかじゃない。誰かのために走り続けてた。それが分かってたから、みんな余計に二人の幸せを祈ってた。二人見てるとき、いつもみんな笑ってて、病院内の雰囲気もすごくよくて。二人のことからかいながら、いつ、くっつくのかなぁ……って暖かく見てた。……ずっと、そんな感じだったんです」
「そうか」
「なのにこんなことになって。どうして?」
拳の上に、ぽたぽたとこぼれる涙は止まらなかった。
これまでたくさんの『運命』を目の当たりにしてきた。
病気だって、相手がいい人だからって容赦してくれるわけじゃない。
でも今回は、今回だけは、
二人があまりにも身近だったせいか、いつまでも心が落ち着かないのだ。