燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~


「天馬、聞いてた?」

 突然名を呼ばれて、驚く。隠れていたつもりが、工藤には分かっていたらしい。
 本当に油断ならない奴だよなぁと思いながら、僕は医局のドアを開けた。


 一条の驚いた顔と、まっすぐこちらを見ている工藤の顔。
 工藤は僕を見ると、はっきりと、

「彼女の記憶を書き換えたいのはわかるけど、それも含め、『つばめさん』という一人の人間なんだ。都合のいい記憶だけなしに、なんて無理な話だからね。だから守りたいだけじゃだめだよ。それも含めて、どう向き合っていくのか考えていかないと」

と言った。そして続ける。「多分そのあたりは、直感的に、今の彼女の方が感じてると思うけど」


 つばめが?
 今も彼女は僕のそばで楽しそうに笑っている。

 何もかも忘れたままで。
 それに変化を感じたことはなかった。

 でも工藤が言うならそうなのかもしれない。
 心の中に不安が押し寄せる。


「……どういう意味だよ」
「さぁね。僕はね、性格が悪いんだ。答えなんて教えないよ。自分で考えて向き合わないと。『犯人』の方じゃなくてさ、『彼女』と」


 そう言われて、思わず顔をゆがめた。
 その時、一条も知っていたような顔をした。


 たしかに家では探れないので、休憩室で犯人の痕跡をたどる作業をしていたが。

 それはバレないように、誰にも迷惑がかかることのないように、
 こっそりやっていたことだ。

 思わず眉を顰めると、
 工藤は、分かってるよね? と確認するように言った。


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