燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~


 私が顔を背けると、天馬先生はくすくす笑う。

「なんで照れるの」
「これで照れない人がいたら見てみたいです」

 なんだかいつもこうやってからかわれている気がするのは私だけだろうか。
 先生はまっすぐ私を見つめると、優しく髪を撫でた。その手が、体温が、私は大好きで、思わず目を閉じてしまう。


「来月休み取ったから。どこか旅行にでも行かない?」
「旅行?」
「うん。どこでもいいよ」


 そう言われて、私が思い出したのはある場所。


「なら私、私が知らなかったあの3か月間に行ってた旅行先に行きたい。確か温泉旅館みたいな……」


 ちょうど旅行は3か月目。
 結局私は2か月たった今も、忘れているあの3か月間のことは思いだしてはいなかった。

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