トライアングル 上

「では、今回は、競技を選んだ亮輔選手が先攻という形で進めさせて頂きます。」

その言葉を合図に亮輔はエアーでブイーンと指先を乾かし
ボールを手にし、

祐介はすぐ後ろに設けられた椅子にドカッと腰掛け、
両腕を組み、眉間にシワを寄せ、不服そうにレーンを見つめる。

10ポンドの球を顔の前で構えながらレーンの前まで歩く亮輔。
その顔は笑顔で満ちている。
「まぁ、この"ボーリング"での勝利は固いだろう。」
しっかりピンを見つめ、1歩、2歩前進すると共に、
腕を背中の後ろまで真っ直ぐに伸ばし、
歩きながら振り子の原理で前に押し出す。
その投げると同時に本来重い球を振る方に傾いてしまう身体を安定させるように
持つ右手、とは反対の左方向に後ろに伸ばしている右足を斜めに出す。
すると、指から放たれた球は真っ直ぐにピンに向かって転がっていく。
1番ピンの少し右の位置、どちらかといえば3番ピンよりに真っ直ぐ転がっていく球。
「ボーリングの一番ストライクの出るコース。それは、、、。」
その球がピンに当たる直前、少し左にフックした。
フックした球が1番ピンと3番ピンの間に当たる。
そう、このコース。1番と3番ピンの間をフックさせて当てる。
すると、フックした球は2番、4番、7番と倒し、
連動するようにドミノ倒しで他のピンも次々倒れていき、、、。

「亮輔選手の1投目!ストラーーイク!!」
女神の軽快な声と共に"りょうすけ"のテレビ画面に『ストライク!』と派手な文字がチカチカ輝く。

真っ直ぐ転がっていた亮輔の球が途中でフックした理由。
それは真っ直ぐ綺麗なフォームから
転がす寸前、転がす為にピンの方へ向けていた掌を
手が本来向くべきうちの方へ向き直すように自然にひねる。
そのひねりが真っ直ぐな球が多少フックするようにスピンを加えた。
「よし!!」
投げたままのフォームから掌を力強く握り、
ガッツポーズ。

その結果に動じる訳でもなく、ドカッと座っていた祐介は
組んでいた腕を解き、膝に手を付き、顔を下に向けて
背中を丸くした体勢から力強くグッと立ち上がる。

くるりと振り返った亮輔。

無言でドカドカとレーンへ向かう祐介。

亮輔はそのまま軽く広角を上げ、椅子に向かって歩きだす。

お互い無言のまま目を合わすこともなく両者がすれ違った。

レーンへ向かう祐介が横を通過した瞬間、亮輔の顔がにんまり悪魔のような笑みに変わる。
「祐介は気付いているだろうか?、、、」

レーンに立つ祐介。
祐介が球を持ち上げ、フンッ!と力強く顔の前まで持ってくる。

亮輔が椅子に腰掛け、手すりに肘を置き眉間あたりに軽く手をあて、変わらぬ笑みで祐介を見つめる。
「いや、気付いていまい、、、。」

祐介が亮輔よりも早い段取りで1、2歩と脚を進め、持った球を頭よりも高い位置まで持ち上げる。
上半身は真横を向き、そこからただただ力任せに
ソフトボール選手のように腕を振り下ろし、下から掬い上げるように球を投げた。
豪速球のような球は地に着くことなくレーンの中央付近まで宙を飛び、ガン!ガン!と1バウンド、2バウンド! 
ようやく転がりだそうとする頃に6番ピンに勢いよく当たる。
弾けるようにレーンの奥でピンが飛び回る。
9番、10番、8番、7番と倒されていき、
静まる頃にはスコアに"5"が表示される。
「くそっ!」
祐介がダン!と左足で場内に響き渡るほど大きな地団駄を踏み悔しがる。

「1番から5番が残るなんて、また常識はずれな、、、。」
亮輔は関心するも手すりに肘を置いたまま微動だにしない。

「面白い形に残りましたね。祐介選手!逆に真っ直ぐ倒せばスペアーですよ〜。」
女神が椅子に座る亮輔の背後あたりから祐介にエールを送る。

今まで中立でいたはずの女神のあからさまに祐介の肩を持った行動。
亮輔が振り返ると女神が「してやったり!」と亮輔にわざとらしく微笑みかける。
「こいつ!」
そういえばこんな事をされる記憶があった。
「まさか、さっきコスプレを突っ込んで
からかった事を根に持ってやがるのか!?」

ガターン!
そんな2人をよそに、2投目を投げ終わった祐介。
「ガーー!」
両腕を上下に大きく振り、悔しがる。
スコアは"2"。

がっくり肩を落とし、椅子に戻る祐介を横に、
再びブーン!と手を乾かし丁寧に準備を始める亮輔。
「まぁ、女神が祐介の肩を持とうと、祐介がスペアーを取ろうと関係ない。」
ボールに指を入れて顔の前まで球を持ってくる。
「俺が障害物競争の後、"レーン"→"ボーリング"にした理由。」
実は第2戦"障害物競争"の始まる前の長考、第1戦で敗北した亮輔はすでに先の先まで計算を立てていた。
亮輔が綺麗なフォームで球を投げる。
球は先程と同じような軌道を描き、
ガターン!
ピンが一気に崩れ落ちる。

「よっしゃ!」
ドカッと座った祐介が思わず声を上げる。

6番と10番ピンが残り、スコアに"8"が表示される。
「残ったか、、、。」
しかし亮輔は落ち着いていた。
「まぁ、プロでもパーフェクトゲームはめったにない。」
亮輔は女神と祐介がいる方へ見向きもせず、ブーンと、
2投目を待つ。
「そう、俺が"競争"から再び"走る"や、もう一度"レース"
はたまた"レーン"→"水泳"とも出来た。」
コロコロと球が戻ってくる。
「勝てる勝負は他にもあった。しかし"ボーリング"にした理由。」
球を手に取り、顔まで持ち上げ、狙いを定め、レーンの右に寄り構えを真っ直ぐに投げる。
「それは、、、球技!!」
ガターーン!!
綺麗に6番ピンと10番ピンの間を通り、
テレビがチカチカと伝える。

「スペアーー!」
女神が高らかに声を上げる。

亮輔のスコアボードに始めて1フレーム目"20"と刻まれる。
「まぁ、上手いか上手くないかはどれだけスペアーが取れるかだからな。」
当たり前のように言い放つ亮輔。

只今のスコアは1フレーム目、亮輔20対祐介7。

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