トライアングル 上
赤いカートの亮輔の目の前に"左"の大きな標識と共にガードレールが見えてくる。
それをしっかり減速をし、アウト→インで左にハンドルを切る。
「そう!今の俺があるのも梨緒のおかげ!」
思い返しながらもしっかりとコース取りをする。
次に待ち構えるコンクリートで囲まれたS字カーブ。

「梨緒は俺をいつも見ていてくれた、、、。」


その試合、泉姫中学は亮輔の力投で9回まで両校無失点。
9回の表、亮輔の投球でくしくも1点を失ってしまう。
その裏、、、。
祐介のタイムリー2ベースで2点を返し、泉姫中学は勝利を収める。
「ナイス祐介!」
チーム全体がハイタッチで祐介を迎え勝利を喜んでいる。
しかし自分の前の回の1失点に、引きつった笑顔しかできず、少し離れたベンチの所からその姿を見守り、突っ立ったまま拍手だけおくる亮輔。
そんな亮輔に梨緒が歩み寄る。
「ナイスピッチング!亮輔!いや〜すごかったね〜!特にほら!あの5回の3者連続三振!」
腕をクルクル回し自分なりのピッチャーのものまねで
シュパーン!とかブーン!とか口で音を立てながら熱く語る梨緒。


「ピッチャーというのは酷で、全バッター相手に投げ続けてるにも関わらずいい形でマウンドを降りることはほとんどない。9回守りきれずに交代。守り切ったにしても褒められ、喜ばれるのは点を稼いだバッター。いつも孤独との戦いだ。」
赤いカートはコンクリートのS字カーブを悠然と抜け、見えたのは、直線の下り坂。





「しかし梨緒だけはいつも俺を見守って支えてくれた。」
その下り坂をアクセルを思いきり踏み一気に下る。
「<俺は梨緒の事が好きだ!だから負ける訳にはいかない!」
周りの景色が飛ぶように早く流れる。
耳元には風の轟音。
「、、、、うすけ〜〜」
そこにかすかにだが声が流れてきた気がした。
「ん?」
しかしそのまま直線を駆け抜ける。
直線の先のカーブへ向け、亮輔がコースの右寄りにハンドルを傾けた。その時、
「りょうすけ〜〜〜!」
今度は確かに聞こえた。バックミラーに目をやる。
そこには今まで居なかったはずの青のカートが確かに見える。
「追いついてやったぞ〜〜!」
下り坂でグングンスピードを上げる青いカート。
「祐介!」
亮輔はギアを4速→2速に下げるが、祐介に気を取られたせいで減速が不十分になり、赤いカートはカーブを外に膨らみながらキュルキュルと音を立て、逃げるようにカーブを左に曲がっていく。
祐介はインコース左側をアクセル全開で真っ直ぐカーブに差し掛かる。
「何でお前がそこにいるんだ〜〜!!」
「おりゃ〜〜〜!!」
赤いカートがカーブを抜けようと加速!
そのちょうど左脇にMAXスピードの青いカートがそのまま突っ込んだ!

ドカーーーン!!
「そういえば祐介(こいつ)はいつもそうだった、、、」


亮輔は学年で5本の指に入るほど頭がいい。
スポーツもある程度でき、技能系でも成績は4か5。
いわゆる優等生というやつだ。
しかしそんな亮輔も初めから全てが出来たわけではない。
勉強も基礎からしっかり押さえ、次の授業の予習を行い、
スポーツでも教えて貰ったことはしっかりと練習をし、
1年の終わりまで自分をスケジューリングする。
才能があるとすればそれは"計画"と、"努力"。
野球も例外ではない。
小学3年生で祐介と共に地元のクラブで野球を始めた亮輔だが、始めに言い出したのは祐介の方だった。
「友達がやっとる野球。面白そうだから一緒にやらんか?」
そんなノリで始めた。
しかし、先輩方のプレーに「かっこいい!」と、すぐに魅了され、真面目に1つずつ教えて貰った事をしっかり覚えた。
そんな亮輔はすぐに先輩に気に入られ、認められ、メキメキと技術を磨いていく。
一方、祐介はというと、友達と一緒にすぐに追いかけっこやチャンバラを始める問題児。
遊んでばかりでいつも注意されていた。
そんな2人のデビュー戦は小学4年生のころ。
チーム内での練習試合は頻繁にあったが初めて他のチームとの試合に出させてもらう。
もちろんスコアが 10対2 と大差がついた所での途中交代。
このころ信頼を置かれていた亮輔は内野のショート。
祐介は外野のライトの守備を任せられる。
バシッとグローブを拳で叩き低い姿勢で気合を入れる亮輔。
祐介はダランと両手を下げ、ただ突っ立っている。
1アウト2ボールで迎えたピッチャーの4球目。
キーン!
バッターの強振に捕まった球が勢いよく亮輔の真正面に1バウンドして飛んでくる。
亮輔は驚き、グローブを出すも捕れず、股下を通って通過をさせてしまう。
「しまった!」
亮輔が声にもならない声で後ろを振り返る。
勢いよく飛んだ球はそのまま2バウンド、3バウンドして、
後ろで構えていた祐介の元に転がった。
ランナーは悠然と亮輔の横を通過して2塁へ向け走っている。
転がる球をキャッチした祐介は左足を大きく上げ、とても綺麗とはいえない大きな振りのフォームで「おりゃ!」と
2塁へ向け思い切り投げた。
レーザービームのような伸びる球が、2塁にカバーに入っていたセカンドの先輩のグローブにランナーよりも早く吸い込まれるように入り、誰が見ても綺麗なタッチアウト。
「おおおおお!」
祐介は喝采を浴びた。
さらに次の回も、打順が回ってきた祐介はホームラン。
全く結果を出せなかった亮輔に反し、祐介はこの日から
注目を浴びるようになる。
 
「いつも遊んでばかりいるくせに!何も練習もせずに結果を出してしまう。」

亮輔はこの日から祐介とは違う道、"ピッチャー"を目指すようになる。

「そんな祐介(こいつ)が気にいらない!」


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