トライアングル 上

カタカタカタカタ、、、、
機械が空回りするような音が耳に入ってくる。
一瞬自分がどこで何をしているのか分からず呆然としてしまう亮輔。
朦朧とする意識の中、上空を見上げていると
うっすらとした視界にぼんやりと女神の姿が映り、
「はっ!」と、我に返る。
「どうなった!?」
気が付くと亮輔の赤いカートは道の脇の砂地の奥の壁にぶつかり止まっている。
どうやら祐介の青いカートとの接触で気を失っていたらしい。
「そういえば祐介は?」
辺りを見てもそれらしき青いカートが見つからない。
「バカな!」
明らかに衝突した記憶と形跡があるにも関わらず見当たらないカートに動揺するように首を振りせわしく動かし探していると視界に青い影が入った気がした。
それは亮輔のカートがうずくまる砂地の向こう、
コースの先。
確かに青いカートが存在している。
その車体の後ろにはヘルメットを被った人影。
それはカートを押す祐介の姿。
すぐ先には自分たちが出発した地点の信号機とスタートライン、つまりはゴールが見えている。 

「おりゃ〜〜!」
ゴールを目前に青のヘルメットとカートが少しずつ進む。

それを見て亮輔も止まっていたカートのエンジンのキーを回す。
ブンブンブン、、、キーッ
エンジンは吹かす音を立てるもすぐ高い響く音を立て止まってしまう。
「くそっ!」
もう一度キーを回す。
ブンブンブン、、、キーッ
カートはエンジン音と共に揺れるもすぐに揺れが収まる。
「くそっ!」
亮輔は貧乏ゆすりのように身体を小刻みに揺らし苛立ちながら青いカートに視線を移す。

少しずつ進む青いカートの祐介の足元にはスタート時2台が並んでいた白いライン。

亮輔はもう一度力いっぱいキーを回した。
ブンブンブン、、、ブルルル、、、
赤いカートのエンジン音が安定し、亮輔が安堵の顔を浮かべた、その時、

「ゴーール!!」
白と黒の旗を大きく横に揺らし女神が高らかに声を上げる。
祐介はカートを押していた手をバッと離し、
「よっしゃ〜〜!!」
両手で拳を握り大きく屈折するようにガッツポーズをした。
そして腕を組み「ガハハ」と笑い、
「一時はどうなるかと思ったわ!」
大きな声で余韻に浸る。

そこへ亮輔が息を切らせながら慌てて駆け寄る。
亮輔は到着するや否や、女神に食ってかかる。
「納得いかない!」
パタパタと旗を振り続けていた女神が旗を降るのを止め、優しい笑顔で首を傾げ問いかける。
「どういたしました?」
亮輔は人差し指を立てて女神を差して訴える。
「これはカート勝負だろ?カートから降りてゴールなんてルール違反だ!」
祐介には見向きもせずヘルメットの中の顔を赤くしながら何度も指差し降る。
「しかし、、、先程のクラッシュした時点で両者ともカートは再起不能な状態になったと判断しました。その時点で引き分けも考えましたが祐介選手がカートを押しだした為、まだ戦う意欲があると判断しました。」
女神の理論的な返しに亮輔は手を振るのを止め、押し黙ってしまう。
「、、、そんなこと、、、」
頭のいい亮輔は女神の言い出しでこの後の言葉が予想が出来た。そしてなりよりも言い返せない心当たりがあった。
「実際、カートに"乗って"ゴールというルールは作った覚えはありませんし、祐介選手はカートと共にゴールしてます。亮輔選手はカートはどうしましたか?」
「、、、くっ」
そう、エンジンがかかったカート。しかし、クラッシュの衝撃でタイヤの軸がひん曲がり、とても走行ができる状態では無かった。亮輔はそのままカートを置いてゴールまで走って来たのだ。
「、、、というよりも、まず何であの差から追いつけたんだ!何かズルをしたに違いない!」
しかし、どうしても納得が出来ない。自分の走りは見本のような理想通りのほぼ完璧な走り。そして何よりここで負けを認めてしまったら"勝利の方程式"が成り立たなくなる。
焦り。
「確かに祐介選手はズルはしていません。では中間地点で38秒5差。このおおよそ埋める事が出来ない差をどのように埋めたか、祐介選手の走りを振り返りましょう。」
そう言うと女神がコースの地図を出し、
赤いカート、青いカートの描かれた棒のついたプレートで丁寧に説明を始める。
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