ごきげんよう、愛しき共犯者さま

「っ、ダメ……ダメだよ、こんな、だって、」
「だって、何だよ」
「だって、私達、」
「兄妹だから、って? 血が、繋がってるから、って?」
「……だ、って、」
「関係ねぇよ、んなもん」

 ふるりと首をふって、己の中にある感情を殺す。
 嬉しい。夢みたい。好き。大好き。ずっとそばにいて。
 脳内を占拠する煩悩を振り払うように「ダメ」を繰り返せば、兄は手の中の白銀を捨て、汚れを上着で拭い、その手で私の頬にそっと触れた。

「さんざん、考えて、悩んだ。ずっと、花を吐くようになってからも、ずっとだ」
「……っ、」

 ぱちり、瞬けば、目尻から水滴がこぼれて、頬を滑る。

「隠し通すって、決めた。なのに、お前まで花吐くようになって……聞けば、蒼汰が好きだとか()かしやがる」
「……そ、れは、」
「バレたらダメだと思ったんだろ? 俺だって思ったからそれは分かる。けどな、千景、」
「……」
「状況ってのは、常に変わる」
「……」
「なぁ、もう、諦めろ。俺らは、同罪……共犯者なんだよ」

 すり、と親指で撫でられた目尻。
 近付く、兄の顔。

「だから、な? 千景、」
「っ」

 ゆったりとした宥めるような口調で、私だけに聞こえるような声量で、私の名前を呼んだ兄は、ぺろりと撫でた方とは反対側の目尻を舐めた。
 かと思えば、額に、まぶたに、頬に、触れるだけの口付けを落としていく。

「……俺と、一緒に、地獄に堕ちてくれ」

 ちゅ、と最後に触れられた唇。
 脳内では「ダメだ」と、警告音が鳴り続けているのに、たったの数ミリだけ離れて、まるで懇願するかのように言葉を吐き出した兄を、私は、拒むことができなかった。


 ー終ー
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