捨てられママのはずが、御曹司の溺愛包囲で娶られました
「静かだな。もっと何か文句でも言うかと思ってた」
クスリと笑いながら言った常務の言葉に、私は我に返る。あまりにも初めてみる世界に圧倒されてしまっていた。
「どうしてこんな……」
なんとか声を発すれば、今度は特に返事をすることなく逆に質問で返される。
「夕食どうする? この上のラウンジでも食べられるし、外に食べに出てもいいけど」
またもやその提案に私は驚いてしまう。いつもとりあえず簡単にルームサービスでも頼んで欲求を解消するためだけに身体を重ねていた。
そんな私の考えていることが分かったのか、常務は私の答えを聞くことなくどうするか決めたようだった。
エレベーターのドアが静かに音もなく開いた。
「とりあえず着替えよう」
「私何も持ってないから無理です」
「全部ある」
その言葉の意味は、常務の家に入ってすぐに分かった。
常務は私を一番にゲストルームと浴室に案内する。そこには化粧水を初め、ありとあらゆるアメニティーが用意されていた。
女性用のバスローブや簡易的な下着まであり、いつもここに誰かが来ていることがうかがえる。そんなことはわかっていたはずなのに、ズキっと胸が痛む。
そんな私の気持ちなど全く気付いていないだろう、常務は私に何も言わせないと言った表情を浮かべる。
「これなら文句ないよな」
返事をすることなく佇んでいると、常務が私の手を引いて廊下を歩きだす。