嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
「え~私は元気ですよ! お腹の赤ちゃんのためにも元気でいないとですし!」

 美琴は内心では慌てていた。このところの憂鬱を礼に見透かされていたとは……。彼の前では必死で元気にしていたつもりだったのに。
 礼は疑いの眼差しで美琴を見つめる。

「それならいいが。子供ができて浮かれているのは俺だけなのかと少し寂しく思っていた」

 彼らしくない弱気な本音をぽつりと漏らす。美琴はぶんぶんと首を横に振った。

「嬉しいですよ。嬉しいに決まってるじゃないですか! あ、礼さんお夕飯がまだでしょう? 早く食べてきてください」

 美琴はやや強引に、礼を部屋から追い出した。

 嬉しい気持ちは嘘ではない。嘘ではないが……100%で喜べているわけでもなかった。
 美琴の憂鬱のきっかけは、妊娠発覚後に丸代がつぶやいたひと言だった。

『本当におめでたいわねぇ。おめでたいけど……無事出産したらふたりの契約は終了ってこと? 美琴ちゃん実家に帰っちゃうの?』

 その言葉に美琴ははっとした。ぴしゃりと冷水を浴びせられたような気分だった。頭の片隅で気がついてはいたけれど、深く考えるのを拒否していた。礼を本気で好きになってしまったから、ひとときの幸せにひたっていたかったのだ。

 無事に出産を終えたら……その後はどうなるのか。礼とはきっとお別れしなくてはならない。さらには、お腹の赤ちゃんとも。赤ちゃんは御堂家で育てられるはずだ。最初からそういう契約だったのだから。
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