愛され王女は王の道をゆく
「というわけだから、貴方も着替えてらっしゃい。
 それまでは動かないであげるから」

「そのまま城に戻る――という選択肢は?」

「ないわね」

「ご無礼をお許し下さい」


 そう言って、リィンはアナスタシアに掴みかかった。

 反乱が起きた際など、地位の高い者を拘束することは、この国では稀ではあるものの、ないというわけではない。

 故に騎士として必須のスキルであり、一人前と認められた騎士であれば、出来て当然のことである。

 だからこそ、リィンの身のこなしに関して、アナスタシアが驚くことはなかった。

 対称に、リィンの方は何が起きたのか、まったく理解できないようだった。

 当然だ。

 その拘束術は確かにアナスタシアを捉えたはずだった。

 きっと誰から見ても、そう見えただろう。

 しかし、結果はどうだろうか?

 伸ばした手は空を切り、リィンの喉元には短刀が突きつけられていた。


「貴方に拒否権はないわ。付いてらっしゃい」


 そう言ってアナスタシアは、スカートの影にリィンの喉元に突きつけた短刀を仕舞い込んだ。
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