朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
席を立とうとした私の右腕を、テーブル越しに前のめりになって強く掴んだ横溝さんに気づいた時、肌に粟が生じた感覚は、誤魔化しようも無い「嫌悪」だった。
動きが止まった腕からスライドさせるように、そのまま私の手を、ゴツゴツとした彼の手が覆うように触れようとしているのに気が付いた。
"夜中は、また会社で作業してるから。
明日の朝、お前に1番に見せる。"
__こういう時に自ずと思い出す人は
自分にとって、どういう存在なのか、
考えたことがなかった。
ぱし、と、店内に呼応する静かなBGMを遮った乾いた音は、ほとんど反射的に私が作ったものだ。
「……すみません。」
無意識に近い行動で、だけど、目の前の横溝さんの手を振り払ったのだということは、もう上手く働かない頭でも分かった。
動悸がとにかく激しい。
そして、その沈め方が分からないことが、苦しい。
目の前の横溝さんの顔をうまく見られない。
だけど私はやっぱり、"1担当者"なのだと。
もう、伝えるしか無い。
拳の中に勇気を閉じ込めて強く握って、顔を上げた瞬間だった。
「_____なんなの?」
初めて耳にするトーンに、また身体は固まる。
目の前の、いつも穏やかそうなこの人が、それを吐き出したのだと理解すれば、恐怖心は簡単に煽られた。
「こっちが折角、親切に色々とコンペ前に情報提供してやってんのにさ。
うちとの取引、傷ついても良いわけ?」
途端に険しい表情と声に変わった横溝さんが舌打ち混じりに言い放った言葉に、また、私の体は急激に冷えていく。
背中を伝う汗が、とにかく気持ち悪い。
「……あ、の、」
まるで別人のように豹変した横溝さんは、どか、と椅子に座り直して、突っ立ったままの私を冷めた目つきで見上げる。
「まあ良いけど?
つかこのコンペ、殆ど出来レースだから。」
「______え?」
嘲笑と共に伝えられた言葉に、
もう心の正常な形を留めておくことが難しい。
「普通にもう、あんたの会社に依頼するのは決まってんの。でもまあ、コンペ形式で選ばれたってかたち取れば、他の代理店に"実力"示せるだろ?
協力する代わりに、こっちもプロモに関して納期とか、価格とか?
無茶な要求もしやすいし、win-winってこと。」
_____この人は、何を言ってるの。
「…今日まで、色々とコンペに関して
共有していただいていたのは…?」
「嗚呼。大体でまかせ?
あんたそういう"仕事っぽいこと"含まないと、
反応しないからさあ。
俺と大人しく「信頼関係」築いてたら、あんたもこの仕事勝ち取って、手柄になるし色々チャンスだったのにね。」
心が壊れていく音は、
きっと誰にも、聞こえたりしない。
自分の中だけで、激しい耳鳴りと共に
悲しく響いているのだと初めて知った。
この仕事は、「信頼」を守ることが必須だと
私だって、知っている。
だけど。
その「信頼」を守るために、
私は、自分をどこまで殺せば良かったのだろう。