朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
「お前、なんだよあの引き継ぎ書。」
「……」
「この2か月のクライアントをまとめたにしては、
データ量が多すぎるだろ。」
それはコツコツと、
2ヶ月間、合間を縫ってやってきたことだった。
那津さんが独立してから
関わったクライアントだけではなくて。
私が代理店にいた3年間で得てきた、なけなしのツテも、そこに全て書きしたためた。
アカプラとして営業に行った先が、どんな会社だったのか、コンセプトはどういうものを好むのか、担当が分かる時は、名刺を参考にそれも全てデータに記入した。
何の役にも、立たないかもしれない。
__だけど私にできることは、
もうそのくらいしか無かった。
「あんなに他の会社に情報渡してどうすんの。
お前ほんとにクビになるぞ。」
「も、もう辞めてきたので、」
苦し紛れに伝えたら、ふと優しく口角を上げる。
「知ってる、だから来た。」
「…え?」
「お前、ほんとはどうしたいの。」
「……」
「俺は強引にお前のこと巻き込んだから。
お前がまた、復帰してあの場所で頑張るって言うならそれは背中を押すべきだと思ったけど。」
「…巻き込んだのは、私です。」
そういうとこは頑固なんだよな、
とやはり愉しそうに笑うその表情に目を奪われる。
この男は、出会った頃からいつもこんなに優しく笑う人だったかなと、何故だかそんな取り留めもないことばかりが浮かぶ。
「でも、もうあの会社の社員じゃないなら話は別。
がむしゃらで無鉄砲で、だから失敗もするけど。
ちゃんと誠実で居ようとする、お前が良い。
傷を”うまく”跡形なく、治せなくていい。
その傷に立ち止まる時があって何が悪いの。
お前はその分、その痛みの分、
絶対もっと優しくいられる。
異論は?」
本音を引き摺り出そうとしている割には、
あまりに優しい声色と言葉だった。
そんな高度な技に抗う術を、
私は持ち合わせてない。
「………那津さんと、働きたい、です。」
鼻にかかりまくった情けない声で、だけど必死に告げたらやっぱり、笑われた。
「…はやく言えよ馬鹿。」
文句を言った途端に、そのまま私の後頭部を引き寄せて自分の胸に掻き抱くから、上手く誤魔化された気がするけど。
那津さんの声だって、ちょっとだけ、揺れていた。