花を愛でる。



「社長は田崎には手を出さないだろ。今までの感じの女のタイプじゃない」

「……そうね」

「あ、そうだ。今日暇? 仕事終わったらご飯行かね?」

「篠田くん、情緒不安定ってよく言われない?」


さっきから話題転換が無理矢理すぎて頭が付いていかない。しかも私の返事を聞かないままスマホでお店の予約取り始めるし。


「いいじゃん、金曜日だし。社長の文句でも愚痴でも聞いてやるよ。柳さんたちも呼ぶか?」

「あー、うん」


柳さんとは私が前の部署にいた時にお世話になった上司で、篠田くん同様異動してからはあまり顔を合わせていない。久し振りに挨拶したいなという気持ちから思わず呟くと、彼は「じゃあ決まりな!」とスマホをしまった。


「うわー、楽しみー。残りの仕事頑張って片付けよ」

「篠田くん早く戻りなよ。今サボってるだけでしょう?」

「はは、バレた。ごめんごめん」


また二回言ったと指摘しようとする前に彼は「じゃあまたあとで!」と足早に私の前から離れていった。嵐が去った時のように辺りが静まり、ドッと疲れが押し寄せてきた。

いや、ちょっと待って。篠田くん今日って言った?
今日はさっきも社長からご飯に誘われていたけれど断ってしまっていた。それなのに他の人との食事の約束はするって、大丈夫なのだろうか。


「(まあいいか。どうせあの人も違う誰かを誘っている……)」


そのことに私が文句を言うのも変な話だ。少しだけ残った胸の痛みに気付かないふりをして社長室へと脚を進めた。


< 10 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop