花を愛でる。
私が不機嫌になったのを察したのか、篠田くんがあからさまに話題を変える。
「田崎がいなくなって俺も寂しいわけよ。社長秘書ってどんな仕事してるんだ?」
「どんな仕事って、色々。あの人のサポートとか」
「あの人って、向坂遊馬?」
会社の廊下で社長の名前を呼び捨てにするのはどうかと思う。そのことに気付いたのか、彼も口を閉ざして周りを見渡す。
特に社長は名前を呼び捨てにしたところで怒ったりするような人ではないが。
「最初は驚いたよ。秘書課に異動して最初の担当が社長とか。田崎って社長と面識あった?」
「……ううん」
「大抜擢だよな、あの人あんまりいい噂聞かないけど。あー、でもだから田崎ってことなのかもな」
「どういう意味?」
言葉の真意を問い掛ければ、篠田くんは意味深な笑みを浮かべて私の胸元を指差した。
「女遊びが激しい向坂グループ次男坊の傍に『鉄の女』がいれば、手を出すことはないだろう」
「……女遊びが激しいって」
「俺、人事の女の子と仲良いからいろんな話聞くんだよな」
人脈というものは計り知れないな。この会社の人間関係なら私よりも把握していそうだ。
しかし彼の素行が良くないことは女性社員を中心に広まっているようだ。この噂が消えない限り、他の社員からの彼の見る目は厳しくなるだろう。
でもそれを彼と関係を持っている私が取り締まる資格はないだろうし、割り切るしかない。