花を愛でる。
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秋が足早に去り、街の街路樹が黄色に染まり始めた頃。
季節が移り変わると共に社内の空気も変わってきているのが篠田くんから言われなくても肌で感じるようになってきた。
「社長結婚するって本当かな?」
「ねー、というかそれってどこ情報?」
「なんか気付いたらみんな口にしてて、ほらこの間も婚約者の人が会社に来てたって」
ずっと危惧していたことが実際に起こってしまった。篠田くんが話題に出した時点でいずれこうなることも分かっていたつもりだったが、社内は今社長の結婚の噂で持ちきりだった。
流石にこの騒がれようだと彼の耳にも入ってしまうはず。
「……さん、田崎さん?」
「っ……」
どうやったらこの騒ぎを納めることが出来るんだろう。そんなことを考えこんでいたせいで社長から話しかけられていることに気が付かなかった。
すみません!と反射的に謝ると彼が目を丸くしてこちらを見ていた。
「いや、大丈夫だけど。田崎さんがぼーっとするなんて珍しいな」
「ごめんなさい。少し考え事をしていました。なんでしょうか?」
「……この間の会議資料、よく出来てたって。短い期間だったのに上手いことまとめたね」
まさかの褒め言葉だったのか。一度聞き逃してしまったことを後悔した。
社長室まで社員の声が聞こえてきているわけではないし、今は自分の仕事に集中しないと。