花を愛でる。
「短期間でしたがデータは揃っていたお陰です。私だけの力ではありません」
「そこは素直に褒められたら?」
変なの、と微笑んだ彼。その姿が新鮮に思えたのは、こうして彼と仕事以外の話をするのは久方ぶりだったからだ。
と言っても“あの出来事”から二週間ほどしか経っていない。それだけ長く感じたということだろうか。
「(私、なんでこんなに安心してるんだろう……)」
まるで彼に話しかけてもらえなくて寂しかったみたいじゃないか。
意識を切り替える為に眼鏡のエッジを持ち上げると、社長がその目元を凝視した。
「頑張るのはいいけど無理はしないように。目のところ、隈になってる」
「え、あ……これは……」
これはどちらかというと資料作成よりも社長の周辺のことを調査していて夜更かしした結果なのだが。
だけどそれを口にしてしまうと、また彼の機嫌を損ねてしまう可能性があるから表には出せないけど。
しかし流石観察眼に優れているだけあって、私の一瞬の反応だけで社長は色々察したのか「なるほどな」と色素の薄い瞳を細めた。
「“無理”、しないように」
「……はい」
まるで釘を刺されたみたいになっている。自分の周辺を探られるなんて、私でも嫌悪感を示すし当たり前だろう。
謝りたくなってしまうところをぐっと堪える。私も嫌われるのを分かってやっていることだし、それに早乙女さんからの期待も背負っているから引くに引けない。
ここは我慢だ。
「いつでもやめていいよ」
「……え?」
ふいに落ちた呟きに顔を上げる。
「誰にも、背負わせたくないからやってるんだよ」
「……」
「なんて、ちょっとヒント出しすぎちゃったか」
忘れていいよ。
そう言って彼は会話を切り上げて、それから何も話さなくなってしまった。
『いつでもやめていいよ』
それは私に対する牽制のようにも聞こえた。でも……
それとは裏腹に……「やめないで」って言っているみたいで……
「(狂う……)」
早乙女さんがあそこまで彼を想う理由が、少し分かった気がした。