花を愛でる。
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週明けの月曜日、あれからまた社長は仕事以外で私に話しかけることはなくなった。
唯一話しかけてくれたあの瞬間は一体何だったんだろう。
「(明日の会議の準備全然出来ていない。流石に残業かな……)」
朝から他の社員のフォローに回っていたため、自分の仕事に手を付ける時間が少ない一日だった。
慌てて秘書課に戻っていると廊下の向こうから社長が歩いてくるのが見え、一瞬身構えたが何事もなかったかのように脚を進めた。
と、
「お疲れ」
「っ……お疲れ様」
声を掛けられるとは思ってなかった為、思わず立ち止まってしまった。
「金曜の会食相手の会社のパンフレット届いてたからさっき秘書課に持っていったけど」
「す、すみません。わざわざ」
「俺も帰るついでだったし。それじゃあ」
「……」
私の横を通り抜ける際、彼の纏うシトラスの香りが鼻を擽る。
煩悩を振り切るようにして秘書課へと戻った。
「お疲れさまです、田崎さんは残りますか?」
「はい、今日はまだ。帰りに戸締りはやっておきますので上がってください」
「それじゃあお先に」
私以外の社員がフロアからいなくなり、静かで冷たい空間が広がる。
黙々とPCと向き合い、資料作成に集中する。この時ばかりは彼のことを考えている暇もなかったように感じる。
気が付けば壁の時計が9時を回っていることに気付かなかった。
「……こんなものか」
あとはこれを人数分コピーして……いや、それは明日の朝でもいいか。今日はもう遅いし帰ろう。
「え、もう9時か……」
先にお母さんに連絡しておかないと、そう言ってスマホを手に取ったときタイミングよく着信音が鳴った。
もしかして帰りが遅いのを心配して母が掛けてきたのかと一瞬思ったが、表示されている電話番号に見覚えはなく、一度出るのを躊躇ってしまう。
暫くの間悩んだ挙句、通話ボタンをタップするとスマホを耳に当てた。
と、
≪遅い≫
「は?」
突然の罵倒に思考が固まる。