花を愛でる。


「え……」


そこに記されていたのは「向坂遊馬」、社長の名前だった。しかも知らない間に何度も電話が掛かってきたようだった。
短時間でこんなに着信履歴があるなんて、まさか社長の身になにかあったんじゃ。


「(遂に女性に背中を刺された?)」


あり得ないことではない。


「す、すみません。私、電話してきます!」

「うん、いいよ。ごゆっくり~」


前を歩いていた三人にそう告げると慌ててその電話に出た。


「もしもし? 社長、どうかされましたか?」

≪ん、花……?≫

「社長?」


二人の時にしか呼ばないその名前が耳に届いて、動揺した勢いでスマホを危うく落としそうになる。


「社長、大丈夫ですか?」

≪……早く、きて≫

「え……」


そう聞こえるや否や、通話は切れてしまいツーツーという音が耳に残る。
彼の声はどこか苦しそうに聞こえた。もしかしたら社長は今倒れているんじゃないだろうか。

徐々に不安が募り、いてもたってもいられなくなる。


「あの、私はそろそろここで」

「え、田崎次行かないの?」

「ごめんなさい、母から連絡があって」

「あぁ、実家暮らしだったね」


柳さんが「こんな時間まで付き合わせてごめんね、行っていいよ」と心優しく私のお願いを了承してくれた。そんな彼に頭を下げ、駅の方面へ走り出す。
ここから社長のマンションまでは30分はかかる。それならタクシーを拾った方が早く着けるだろう。

どうか無事でいてほしい。


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