花を愛でる。
分かっていた。いや、分かっているつもりだった。
だけど実際に彼がこの会社を去るという選択を取ってしまったとき、それは彼が向坂の名を捨てるのと同じことではないのだろうか。
もし本当にそうなってしまったら……
「まあアイツが俺の力を借りたいと懇願してくるのであれば? 手を貸してやらんともないがな!」
「兄さんは元から支援する気あっただろ」
「ふん、アイツは俺が唯一認めた男でありライバルだ。こんなところで屈されても困る」
ここで一番社長のことを拗らせているのはきっと黛会長なんだろう、今の会話を聞いていてなんとなくそう思った。
ところで私がここに呼び出された理由は一体何なのか。すると何やら黛会長は自分の秘書に目で合図を送ると、黛さんが私に近付き「これを」と一枚の便せんを手渡してきた。
「これは?」
「今週末にあるパーティーの招待状だ。他に知り合いを誘うように言われていたが特別にお前に譲ってやってもいい」
「え、私にですか? 何故?」
私の問いに彼は長い脚を組み替えるとギシと音を立てて椅子に凭れた。
「そこに遊馬の兄が来る。直接話せる絶好の機会だぞ」
「っ……」
「吉野さんのことだから忙しくてそれどころではない可能性もあるがな」
黛会長の言葉に私は手にしていた招待状に目をやる。ここに社長のお兄さんが。社長のことを直談判する機会であるのは確かだ。
だけど社長は準備が出来たら私に声を掛けると言っていた。それを無視して勝手に動いていいのだろうか。
「ふん、必要のないならないでいいぞ。実際、吉野さんは遊馬のことなんてどうでもいいだろうしな」
「そう、なんですか?」
「あの兄弟は不仲で知られているからな。二人が揃ったところなんてここ十年近く見られていないんじゃないか?」
「え、でも……」
確か社長はお兄さんのことをとても尊敬していたはず。そのような節を黛会長も電話先で口にしていたように思う。
ここに来て自分の中にあった情報と矛盾を起こして混乱する。何が正解で、何が間違いなのか。
「さあ、どうする?」
「……」
もう、自分の目で確かめるしか術はなさそうだ。