花を愛でる。
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『どうせパーティーに着てこられるような服を持っていないんだろう。今回は特別にこの俺が用意してやろう。ありがたく思え』
という黛会長の口車に乗せられて彼についてきてしまったのはいいけれど、
「あ、あの……このドレスはちょっと」
「なんだ、俺のコーディネートが不満か?」
「不満というより……」
黛会長が用意してくださったドレスは背中が大きく開いており、露出の多いものだった。
社長が以前のパーティー用に選んでくれたドレスは私に合わせて露出が少ないながらもドレスの形で女性らしく見せてくれるものだったため、私でも安心してくれたのだ。
出来ればこのドレスを着てパーティーに行きたくないけど、高級ブティックにまで連れてきてもらったのに拒否するのも申し訳ない。
鏡の前で慣れない自分の姿を複雑そうに眺めていると突然肩に白い布が掛けられた。
「え?」
「すみません、兄が気を遣えなくて。よかったらこのボレロ羽織ってください」
困り顔で近付いてきた黛さんに彼がボレロを羽織らせてくれたのだと理解する。確かにこれがあれば肩回りの露出を控えることが出来て、私も落ち着くことができる。
やはり黛さんとどちらかと言うと社長に似ているな。でもあの黛会長の弟さんなんだよね。
傲慢な態度で椅子に腰かけている黛会長にこっそりと視線を向けるが、それに気付いた彼がむっと表情をしかめ、自身の高級そうな腕時計を見つめた。
「そろそろ時間だな。弥、車を回せ」
「分かったよ。じゃあ田崎さんも一緒にホテルに向かおうか」
「はい、宜しくお願いします」
今回は隣に社長がいない為、以前のようにフォローされる立場でいるわけにはいかない。
前回の反省を活かして今日の為に学んでいたことを試すいい機会でもある。
会場であるホテルへの移動中、車内で私は黛さんからの今日のパーティーの説明を受けた。
とある企業の上場記念のパーティーで、会社の役員だけではなく様々な業界から人が集まっているらしく、人数が多い為もしかしたら吉野さんを見つけることすら難しいかもしれない、と。
「俺たちの方で吉野さんを見掛けたら田崎さんに連絡します。それまでは自由に行動していただいて構いません」
「だが、俺の付き添いで来ているんだ。分かっているだろうが俺の名は汚すなよ」
黛会長はそう言うけれど、私を吉野さんに会わせるために誘ってくれたり、好みではなかったとは言えドレスまで用意してくれたりと、いい人ではあるんだろうな。
分かりました、と返事をすると彼が静かに微笑んだのが見えた。