花を愛でる。



ホテルに着いてからは黛兄弟とは別行動をすることになった。黛さんは「何かあれば直ぐに知らせてください」と言ってくれたけど、彼らも彼らで忙しいだろうしあまり迷惑を掛けないようにしないと。


「(それにしても言われていた通り人が多いな)」


この間のパーティーよりも規模が大きいのは一目で分かった。シャンパングラスを片手に一人一人の顔を確認して、吉野さんの姿を探す。
一応吉野さんの顔を一度写真で見ているし、一目見れば分かると思うのだが。


「(というか吉野さんに会って私は何を聞けば……)」


まだそれをちゃんと決めていないのに……

と、


「え……」


視界に映ったその人から私は視線を逸らせなくなる。背が高く、人当たりもよさそうな表情で人と話している男性は他の人とは違うオーラが見えた。
黛会長のような明らかに威圧感のある風格ではなく、気品高く凛とした空気を纏っている。彼が誰なのか、直ぐに分かった。


「(あの人が向坂吉野さん……)」


社長のお兄さんであり、現向坂グループの代表。よく観察すると少し垂れている目元や癖のある毛先が彼にそっくりだった。
相手の男性と話すその和やかな姿は社長や黛会長が言うような厳しい人には見えないけれど。


「(見つけたのはいいがどのタイミングで話しかければ……)」


彼が一人になるタイミングを図るしかない。しかし彼に関心を抱いている人物は多いからか、次から次へと彼に挨拶をする人の波が収まらない。
一定距離を置きながら、彼の様子を伺う。見れば見るほど振る舞いや表情の作り方、微かに聞こえる話し口調が社長に似ている。いや、彼が吉野さんに似ている、が正しいのかもしれない。

吉野さんを見ていると、社長がどれだけ彼から影響を受けているのか分かる。そしてそんな彼に黙って接触しようと考えている私にも罪悪感が芽生え、そして重くのしかかる。
そんな重い気持ちを払いのける意志の強さを保っていると、突然吉野さんから人が離れ、彼が一人になる瞬間が訪れた。今なら話しかけられるかもしれない。


「(迷っている時間なんてない、ここまで手配してくれた黛会長の為にも……)」


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