花を愛でる。
ホテルの従業員に中庭の場所を聞き、入り口へと向かう。すっかり外は夜になり、空には黄色に輝く月が出ていた。
今まで人混みの中にいたせいか、肌を撫でる夜風が火照った頬を冷ましてくれて心地いい。
「(見た感じ人気はないけれど……)」
でも何故だろう。彼が近くにいる気がする。
人気があるのも頷けるほど綺麗な花が咲き誇っている庭を進んでいくと大きな白い噴水が見えた。
そしてその向こう側に立っている人物を見つけて私は脚を止めた。
その人は私がここにくることを最初から分かっていたかのようにゆっくりとこちらを振り返った。
「僕に何か用かい?」
吉野さんの口元は笑っていたが、目元はどこか冷めていてちぐはぐなイメージを受けた。
もしかすると会場で私が彼の様子を伺っていたこと、それすらも彼は気付いていたのかもしれない。
一瞬怯みかけたが意を決して彼に近付く。すると吉野さんは私の顔を凝視して、「そうか」と小さく呟く。
「君は遊馬の秘書か。一度見たことがある」
「え……」
いつ私の顔を見たのだろう。それよりも私が社長の関係者だと分かった途端、口元の微笑みすら消えた。
こっちが吉野さんの素の姿? 黛会長とはまた違う威圧感に押しつぶされそうになる。
「ということは遊馬も来ているのか」
「いえ、ここには私だけです」
「そう、それで俺に何か用でも?」
「……」
社長のことを聞くならこのタイミングしかない。
「社長……弟さんについてどう思っていますか?」
「どう? 質問が端的すぎないか? それで君が求める答えが手に入る?」
「それは……」
私の問いに吉野さんは「ふむ」と一瞬考えこんだ。
「それは最近、遊馬が父の元に頻繁に訪れていることと何か関係が?」
「え?」
「何かを企んでいるのは気付いているけど、どうせロクでもないことだろう。まあいいか」
吉野さんも社長の行動を掴んでいるらしいが思惑までもはまだ伝わっていないみたいだ。
それよりもあの人、父親の元に訪れているって一体何の話をしに……