花を愛でる。



遊馬か、と吉野さんは思いを馳せるような表情を浮かべた。
しかし次に発せられたのは彼に対する厳しい評価だった。


「遊馬も昔は素直に可愛い弟だったが、今としてはどうとも思わないな」

「っ……」

「向坂家に身を置いているのにも関わらず向上心の低い愚弟だ」


自分のことではないのに、その場に彼はいないのに……
それでも吉野さんから聞かされた彼への評価に目の前が真っ暗になった。

黛会長から吉野さんが優秀な方であることも教えられ、社長が彼のことを尊敬していることも知っている。
だからかそんな吉野さんから社長を蔑むような言葉が発せられたことにショックを抱くと同時に、底知れぬ怒りが湧いてきた。

社長のことを理解していれば「向上心がない」とは言えないはず。彼は社長がどんな気持ちで向坂家にいたのか、何も分かっていない。それなのにそんな評価を下すなんて勝手すぎる。


「どうして向上心がなかったのか、考えたことはないんですか?」

「……」


どれだけ冷たい視線を向けられたとしても、彼の言葉をそのままの意味で受け取ることは出来ない。彼が自分の夢を諦めなければならない環境にいたことも吉野さんは一番近くで見ていたはずだ。
私たちの間に強い風が通り抜ける。感情がない瞳で私のことを見つめていた吉野さんは「君は……」と何かを言葉を掛けようと口を開く。

その時だった。


「兄さん」


ここにいないはずの、彼の声が背後から耳に届いて思考が止まった。


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