花を愛でる。



「遊馬……」


吉野さんの視線が私の後ろに向けられる。その視線の先を辿るように後ろを振り返るとそこにいたのはパーティー用のスーツに身を包んだ社長の姿だった。
彼は私に優し気な微笑みを向けた後、自分の兄である吉野さんを前にして余裕ある表情を浮かべた。


「うちの秘書が迷惑を掛けました。何かありましたか?」

「……今日は来ないと聞いていたが?」

「少し気が変わりまして。なんて、久々に優秀な兄の顔を拝むのもいいかなと思ってさ」

「……」


二人の間に流れる異様な空気に言葉を発せなくなる。それどころか黙って吉野さんに会いにきたことがバレてしまい、どんな顔をすればいいか分からない。
どうしよう、絶対に怒られる。それどころか彼からの信用を失うかもしれない。そんな心配ばかりする私を吉野さんがはあと深く溜息を吐いた。


「自分の秘書なら勝手な行動を取らないように管理するんだな。僕は先に戻るよ」

「はい、元気そうでよかったよ」

「……お前もな。最近、頻繁に父と会っていると聞いたが会社には迷惑を掛けるなよ」

「それは……心得てるよ、大丈夫」


それを聞くと会場に戻る為、吉野さんが私たちの横を通り抜けていく。
すると「一つ言い忘れてた」と社長が彼に聞こえるような声で口を開く。


「向上心はないように見えてずっと昔からあるよ。だから安心していい」

「……」


吉野さんは「そうか、分かった」と一言言い残すと花壇の角を曲がり、私たちの前から姿を消した。
独特な空気感から解放された私は深く息を吐くか、隣から伸びてきた手によって頭を掴まれた。


「で、俺に黙って何をしようとしていたのかな、田崎さんは?」

「も、申し訳ありません」

「待っててほしいって言ったのにさ、珍しく俺の言うこと聞かないじゃん」


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