花を愛でる。



「すみません、彼女アルコール弱くて」

「え~、そうなのか? 仕方がないなあ」

「その代わりに今日は僕がお付き合いしますから」


いつから気付いていたんだろう。注がれた日本酒を私の代わりに一気に煽った社長に目を見張る。
そして表情を変えず再度お酌をされている彼を見つめていると、彼が口の動きだけで「行って」と伝えてきた。

その言葉に甘えて慌てて側を離れると今度は絡まれずに済んだ。


「しっかし、君の秘書はしっかりしてるな~」

「ええ、自慢の秘書です」


後方で彼がそう返事したのが耳に届く。いつも堅苦しいとか真面目過ぎるとか苦言ばっかり述べているくせに。
さりげなく、そしてスマートに困っている人を助ける彼の行いは、確かに一瞬でも心を許したくなってしまう。

アルコールは一滴も摂取していないのに何故か動悸が激しくなってきた。



隙あらば食事に誘ってきたり、会食でも相手からのお酌を断らずにお酒の相手をしているのを見て、勝手に彼はお酒に強いものだと思っていた。
そう、思い込んでいた自分がいたことを反省する。


「社長!?」


事件は会食終了後に起こった。役員の方々の帰りのタクシーを手配し、全員を見送った後、隣に立っていた社長が突然私に体重を掛けてくる。
何事かと思うと彼は顔を真っ赤に染めて、すっかり酔い潰れてしまっていた。


「弱いなら無理して呑まなくてもよいのでは?」

「日本酒苦手なんだよね、だから呑んでなかったんだけど。あの時以外は」


私たちもタクシーに乗り込み、酔い潰れた彼のマンションへと向かう。その途中、徐々に落ち着いてきた彼の口からぽつりぽつりと言葉が漏れた。
呑んでいなかったんだ。演技が上手いということだろうか。それとも……

ん? あの時……


「え、まさか……」


もしかして私を助けた時に……


「うっ、気持ち悪い……」

「ちょっと!? すみません、一回停めてください!」


咄嗟の判断でタクシーを停めたお陰で最悪の事態を避けることはできた。



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