花を愛でる。
後は会場で当然の振る舞いをすればいいだけ。
そう気合いを入れなおした私を見兼ねた彼が「そういえば」と、
「ドレスは? 今日持ってきた?」
「ど、れす……?」
彼の言葉に昨日までせっせと覚えた内容が真っ白な砂と化した。
そうだ、どうして私は忘れていたんだ。社長の参加するパーティーなのだから間違いなくドレスコードは必要なはず。
今まで名簿を覚えることとパーティーマナーを身に付けることで一杯一杯になり、初歩的なことを忘れていた。これでは秘書として仕事する以前の問題だ。
「まさか持ってない、とか」
「っ……えっと」
これまで友人の結婚式にも参加する機会がなかったからそのような場所に着ていける洋服を持っていない。
今からでも店に寄ってこしらえることは可能だが、社交界に着ていけるドレスなど私に分かるはずもなかった。
素直に持っていないと言えない私を社長は見透かしたように笑った。
「あはは、そんな怖い顔しなくたっていいのに。それにドレス用意しててもこっちで準備したやつを着てもらうつもりだったから」
「そうなんですか?」
「当たり前だよ。だって君は俺のパートナーとして参加するんだから」
パートナー? 初めて聞くフレーズに耳を疑うと私たちの前に一台の高級車が止まった。
流されるままに乗車すると運転手に「予定通りに」と告げた彼を合図でどこかへと走り始めてしまう。
「ちょ、ちょっと待ってください! どこに向かうつもりですか!?」
「嫌だな、悪いようにはしないよ」
「それ、どう考えても悪党が言う台詞ですが……」
余裕たっぷりな彼の笑みに眠気はどこかに飛んで行ってしまった。
戸惑う私を乗せた車は明らかにホテルへのルートとは違う道を走っていった。