花を愛でる。
有名な高級ホテルのパーティー会場に着いた私が最初に驚いたことは会場の規模だ。ホテルの中でも特に大きい宴会場を貸し切っているのだろう、人の多さにも圧倒されてしまう。
「(確か社長は友人の昇進祝いだとか話していたけれど)」
この規模の昇進ということはもしかして、そう思った私は何かヒントになりそうなものがないかと辺りを見渡した。
すると会場の前の方に飾れている垂れ幕に『黛グループ 新会長就任祝賀会』と書かれていたものが目に入った。
黛って、
「あの黛!?」
「あれ、知ってる?」
「知ってるも何も、黛グループって」
日本でも有数の大財閥で有名な企業を傘下に有するグループ会社。向坂グループと肩を並べているがその資産額は日本トップという噂もある。
グループの代表が変わると聞いていたが、まさか今日参加するパーティーがその祝賀会だとは思わなかった。
急に緊張感が増してきて動きがぎこちなきなる。そんな私に対し、普段通りの緩い空気を纏っていた社長が柔らかく微笑んだ。
「リラックスリラックス。そんな怖い顔してると逆に目立つよ。アルコールでも飲む?」
「いえ、仕事中なので結構です。このような場に来るのが初めてなもので、すぐに慣れます」
「何を持たずに立ってたら俺たちが馴染んでないと思われるから、ほら」
「……」
彼がホテルのスタッフからシャンパンが注がれたグラスを受け取り、一つ私に手渡した。
そういうものなのか、とそれを胸の位置で固定すると冷静になって辺りの人物の顔を観察する。さっきから見覚えのある顔が何人かいる。
「(詳しくないけどあそこにいるのは有名作家の……さっき見掛けたのは海外でも賞を取った映画監督……)」
様々なジャンルの著名人が集まるパーティー、それだけで頭が混乱しそうになる。
軽くシャンパンを口に含んだ彼が「ふむ」と視線を周りに向けた。
「さて、頼んでいたことをお願いしようか。君は仕事をしたくでうずうずしているようだから」
「っ……」
「これから俺は今までお世話なった人、これからお世話になりたい人に挨拶に向かう必要がある。その挨拶がスムーズにいくように、田崎さんにはサポートしてもらいたい」
一度挨拶した人物にはチェックを入れ、とにかく多くの人に挨拶することが今回の目的。
名簿が入ったファイルは車の中に置いてきた。頼りになるのは自分の頭の記憶だけ。
「あぁ、それから誰かから話しかけられても相手にしなくていいから。何かあれば俺を通すこと、いい?」
「……分かりました」
最初から誰かと話すなんて考えてもいなかったけれど。彼の指示に頷くと「早速リスト通りに行こうか」という彼の言葉の合図に頭を切り替えた。