花を愛でる。
どうしよう、一対一で話すとなると言葉が出てこなくて困る。
早くこの場を後にしようとしたが男性が「あれ?」と私の顔を見て小首を傾げた。
「もしかして、さっきパーティーにいました?」
「え? あぁ、まあ」
「ですよね。さっき会場で見て綺麗な人がいるなって思ってたんで吃驚しました」
「え……」
突然初対面の人に「綺麗」と言われて難色を示す。社長以外にも初めて会った女性を口説き始める人いるんだ。
すると彼は私が困惑しているのを見て、急に慌てた素振りを見せた。
「わ、すみません。なんか今のナンパっぽかったですよね。俺怪しいものじゃなくて、えっと……」
彼は胸ポケットから黒いケースを取り出すとその中から名刺を出して私の前に差し出した。
その姿にハッと我に返り、私も名刺を取り出し交換をする。
手渡された名刺に書かれた名前を心の中で読み上げる。
黛、弥……黛?
「(え、それって……)」
今日の主催の……
「こんばんは」
突如聞こえてきた声と同時に手に持っていた名刺が後ろから誰かに奪われた。
ふわりと香ったシトラスの香水に本能的にそれが誰か直ぐに理解できた。
「こんなところで会うなんて奇遇だね」
私から奪い取った名刺を眺めている社長は次第にその視線を私の背後にいる黛さんに向けた。
普段からは感じられない冷たい視線に私まで蛇に睨まれたように動けなくなる。