花を愛でる。



とりあえず彼女の名前を伝えて知り合いかどうかだけでも。そう彼に電話を掛けようとしたとき、前から忙しない足音が聞こえてきた。
顔を上げると社長室への長い廊下を歩いてくるのはまだここにいないはずの社長の姿だった。


「社長? 今日は午後出勤では?」

「そんなことより雛子は?」

「え、」


彼の口から先ほど耳にした彼女の名前が紡がれたのを聞いて、あの女の子が彼の関係者であることを確信する。
社長室の中ですと説明するとノックもなく部屋に入った彼と中にいた早乙女さんが対峙する場面に出くわす。


珍しく彼が醸し出している緊迫したムードに息を呑むと、社長は一転として外向けの微笑むを浮かべた。


「“早乙女”さん、どうしてここに?」


彼に名前を呼ばれた早乙女さんは一瞬顔を強張らせたように見えたが、その圧に負けず小さな口を動かす。


「突然来てごめんなさい。でも私遊馬さんに伝えておかないと駄目なことがあって」

「急にここに来られても困るよ。ここは仕事をするところであって子供が来るような場所じゃない」

「……」


社長の厳しい言葉を受けて何も話せなくなる早乙女さんに思わず同情の念が押し寄せてくる。
今にも泣き出しそうな表情を見て、いてもたってもいられなくなり、思わず「あの」と口を挟んでしまう。


「そこまで言わなくても……まだ未成年ですし分からないことも多いかと」

「何言ってんの、あの子はもう成人してるし22だよ」

「え……」


彼の言葉を受けて再度早乙女さんに目を向ける。身長も150cmいっていないように見える彼女が成人している? それも22歳って大学生?
見た目から勝手に中学生くらいだと思い込んでしまっていた。ということは社長とは10歳差ということか。それならば婚約者として問題はない……のか?


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