花を愛でる。
「確かに彼女がしたことは常識的ではありませんが話ぐらい聞いてあげてはいかがですか? 元々午後出勤だったので時間はあるでしょうし」
「向こうに話があっても俺にはないし、それにその話も何となく検討が付いてる。俺は自分の時間を無駄なことに割くのが嫌なんだ」
「それが年下の子供に対する態度ですか?
「……」
自分でも彼の態度に苛立っていることに驚いている。何故こんなにも感情が込み上げてくるのか分からない。
分からないけどこのまま彼女を一人にするのは彼にとっても駄目なことだと思う。
「お言葉ですが、今の社長は余裕がなく大人げないと思います」
「ふうん、大人げないか……」
「それに、婚約者……なんですよね? 一度話は聞いてあげた方がよろしいのでは?」
「……それ、あの子が言ったの?」
なんのことだ、と一瞬思ったが私は社長の口から早乙女さんが彼の婚約者であることを聞いていなかったことを思い出す。
黙っていても仕方がない為、「彼女から聞きました」と正直に話すと彼はあからさまに苛立ちを露わにした。
「あの子は純粋なんだ。自分の視界に映るものが全てだと思ってる。人間なんて裏ばかりなのにさ」
「……怖いんですか?」
「ん?」
「彼女に自分の裏側を見られるのが怖いんですか?」
彼の苛立ちに立ち向かうように強い言葉でそう告げると、一瞬真顔になった彼がふっと口元を緩めた。
「今日の田崎さんは俺に当たりが強いな」
「いつも通りだと思いますが」
「大人げないとか怖いとか、そんなことを言われっぱなしだと格好がつかないな」
一転して爽やかな笑顔を浮かべた彼は私の隣を通り過ぎると社長室へと向かっていく。
後ろ向きに手を振りながら「10分だけ待ってて」と言った社長の背中を見送った。
少し、踏み込みすぎただろうか。これくらいなら許されるんだろうか。
だけど彼の顔を見る限り、彼女について触れてほしくなさそうだった。
「(婚約者、本当に?)」
だとしたら私は、あの時の二の舞ではないか。
10分後、一人部屋から出てきた早乙女さんは部屋の前にいた私に申し訳なさそうに「失礼しました」と深く頭を下げた。
廊下を進んでいく彼女に小さな背中は今日初めて見た時よりも縮こまっているように見えて、社長が部屋の中で彼女のことを傷付けるようなことを言ったことは何となく察することが出来た。
彼女の姿が見えなくなったのを確認してから社長室に入ると、彼は「お待たせ」と普段通りの笑顔を見せる。
これ以上私が言及することは何もない、そう自分に言い聞かせて秘書業務に集中した。