花を愛でる。
「黛さんはどうしてこちらに?」
「少しこの近くで用事があったので会社に戻る前に昼食を取ろうかなと。ここのお店美味しいってネットでも評判だったので」
「そ、そうなんですか」
評判って、この人秘書とはいえあの黛グループの人間のはず。何故そのような上級階級の人がこんな街中にある定食屋に?
色々な疑問が浮かんでいる私に「お隣いいですか?」と尋ねた彼にぎこちなく頷く。
「田崎さんはよく来られるんですか?」
「いえ、私も初めてでして。友人に勧められて」
「あす……向坂さんとは一緒じゃないんですね」
隣の椅子に腰かけた彼からの問い掛けに「何故?」と、
「彼はあまりこのような庶民的なお店には来ませんし、それにいつも行動を共にしているわけでは」
「そうなんですか。すみません、俺勘違いしてて。この間のパーティーに二人でいらっしゃったので向坂さんのパートナーなのかと」
「え……」
パートナーって、彼の口から漏れたフレーズに思わず絶句する。
「ち、違います。あれは秘書として彼に同伴しただけで、彼とはそのような関係ではなくて」
「そういえばそうおっしゃっていましたね」
「それにあの人は、」
あの人には婚約者が……
「お客さんお待たせしましたー。奥の二人席へどうぞ」
中途半端なタイミングで私たちに割って入るように店の店員に呼び掛けられる。順番的に私だと立ち上がると黛さんは「それじゃあ」と控えめに会釈した。
そこから滲み出る育ちの良さを見てハッとする。先日調べた内容では彼の兄である黛恭一と社長は古くからの知人であることが分かった。それならば黛さんももしかしたら彼について何か知っていることもあるかもしれない。
「あの、もしよろしければ一緒にいかがですか?」
悩みよりも先に好奇心が勝って彼に声を掛けていた。