花を愛でる。
「話って……」
「……実は向坂さんの現状についてお尋ねしたいことがありまして。話せる範囲で教えていただけると助かります」
「ま、待ってください。それはなんの為に」
「俺の兄の為です」
兄って……
「黛恭一……さんですか?」
「ええ、知っていたんですね」
「勝手ながら調べさせていただきました。うちの向坂と昔からの知り合いだとか」
「知り合いというか、簡単に言ってしまうと幼馴染ですね」
やはりそうなのか、そう納得したところでテーブルに注文した料理が運ばれてくる。
先ほどまで涼しい顔で語らっていた彼だったが、生姜焼きを目の前にして瞳が輝き出す。
「はあ、これが生姜焼きですか。名前を聞いたことがあったんですが実際に食べるのは初めてです」
「……ちなみに黛さんってカステラは食べたことありますか?」
「名前を聞いたことがありますが食べたことはありませんね。どうかされました?」
「い、いえ……」
やはりこの手の人間とは普段から口にしているものが違うんだろう。生姜焼きを一口含んだ黛さんはその味を深く噛み締めると「とても美味ですね」と幸せそうに表情を緩ませた。
「えっと、それで向坂と黛さんのお兄さんの関係って」
「幼稚舎からの幼馴染です。昔から社交界でもよく顔を合わせていたみたいで。ただうちの兄がちょっとした問題児でして」
「問題児というのは?」
「その……ことあるごとに向坂さんに突っかかるというか……勝手に強くライバル視をしているんです」
ライバル視? その言葉を聞いて頭の中で社長と見ず知らずの誰かが火花を散らす。しかし彼が誰か闘っている様子は全く想像できなかった。
黛さんはどこか自分の兄弟に呆れているのか、困ったように溜息を吐く。
「そのせいで向坂さんからは邪見に扱われていて。二人の仲は良好とは言えません」
「(だからパーティーの時も挨拶に行かなかったのか)」
今になってあの時の謎が解けた。仲は良くないのに会長就任のパーティーには脚を運ぶのって、社長も社長で素直じゃない気がする。