花を愛でる。
「兄は子供なんです。他人が大事にしているものを欲しがってしまう質でして。それが遊馬さんなら尚更」
「……」
「遊馬さんにはいつも迷惑を掛けてばかりで。ただ構ってもらえなくて拗ねているだけなんですよ」
子供でしょ?と微笑んだ黛さんはそう言いながらもどこか黛会長に対する尊敬の気持ちが感じられた。
私が口を挟むような話ではなかった。黛さんがどうしたいかなんて、それは彼にしか分からないのに。
ビルの入り口まで送ってくれた彼を振り返ると黛さんはまた頭を下げた。
「今日は時間を取らせてしまい、本当に申し訳ありません」
「気にしないでください。それに私も少し言いすぎてしまったところもあるので」
「はは、田崎さんがあそこまで熱い方だとは思わず驚きました」
「そんな……」
確かにあの時は頭に血が昇って私らしくないことも口走ってしまったかもしれない。
反省、と肩を落としていると黛さんは私のことをじっと凝視した後、ぼそりと小さな声で呟いた。
「うん、遊馬さんが秘書に田崎さんを選んだ理由が分かった気がする」
「え?」
「これ、この間渡せなかった俺の名刺です。何か困ったことがあったら連絡してください」
彼は私に自分の名刺を手渡すと「それじゃあ、また」とビルの中に戻っていった。
そんな彼の背中を見つめながら直前に言われた言葉について思考を巡らせる。
社長が私を秘書に選んだ理由が分かったって……
「(私が一番分かってないのに……)」
分かったなら最後まで教えてほしかった。