花を愛でる。
ぼそりと吐き捨てるように呟いた愚痴に突っ込んでいいのか分からなくなる。
何となく悪くなった空気を換える為にんんっと咳払いをすると、
「まだ外ですのでネクタイはちゃんと締めてください」
「えー、じゃあ田崎さんが締め直して?」
「自分でやってください」
そこまでしません、と冷たくあしらうと彼は不満そうに自分でネクタイを締め直した。
取引先との会議での彼とは纏う空気が違いすぎてギャップに力が抜ける。
普段通り彼専属の運転手が運転する車で会社へと戻る途中、会議の疲れからか目を閉じて静かにしている社長の隣で次の役員会議の資料内容を確認する。
最近は仕事を詰めすぎているせいか弱冠疲れが身体に現れてきているが、今日は夜用事があるため最悪でも19時には会社を出たいところだ。
と、
「……?」
マナーモードにしているスマホが震え、画面を確認するとそこには母の名前が映し出されている。
この時間帯だと丁度スーパーのパートの仕事が終わったくらいだろう。私が仕事中は迷惑にならないようと連絡してくることはないのに珍しい。
隣で眠っているのか静かな社長を横目にその電話に出る。
「はい、もしもし。どうしたの?」
しかし次の瞬間、聞こえてきたのは母ではなく憶えのない男性の声だった。
≪もしもし、田崎春子さんの娘さんですか?≫
「え……はい、そうですが」
何故だが胸がざわつく。それも嫌な予感に。