花を愛でる。
≪落ち着いて聞いてください。春子さんが倒れて病院に運ばれました。今から言う病院に来られますか?≫
「……たお、れた?」
彼から状況を聞かされ、咄嗟に言葉が出てこず頭が真っ白になる。
倒れたって、嘘だ。今朝だって母は私のことを笑顔で送り出してくれた。「今日は一緒に夕食を食べよう」と約束を交わしたばかりだ。
だって今日は……
「スピーカー」
「え……」
「スピーカーにして」
そう言ったのは瞼を閉じて眠っていたはずの社長で、私は彼に指示に従って通話をスピーカーに変更した。
スマホ越しに救急隊員の男性が母の運ばれた病院の名前を言う。そして通話が切れると彼は前に座る運転手に話しかけた。
「聞こえたな、今の病院に向かってくれ。今すぐ」
「え、社長? でもこの後は会社で会議が……降ろしてくれたらタクシーで」
「タクシーを拾っている時間が無駄になる。大丈夫、社内の会議なら最悪日にちをずらせる」
「……」
私の不安を汲み取るように、彼は真剣な表情のまま私に語り返る。
「いつだって家族が優先事項だ。それを忘れるな」
「社長……」
「大丈夫、ちゃんと間に合うよ。俺が、送り届けるから」
ね?と最後には優しく微笑んだ彼にぐっと涙が込み上げてくるのをこらえた。
母が倒れたと聞いて、最近帰るのが遅くて母の体調が優れなかったことに気が付かなかったことを後悔した。それでも毎日朝早く起きて朝食を作り、パートに出掛け、休める時間なんて数少なくて。
自分のことしか見えていなかった自分が情けなくて。
「はい……」
泣いたらもっと情けなくなる。そんなところをこの人に見られたくなかった。