花を愛でる。
そう再び強く言い放つと一人の男性が「おい」と小さく呟く。
「なんか面倒くさくね? マジで警察呼ばれてたらヤバいで」
「……そうやな」
男二人は盛大な舌打ちをするとパトカーの音がする方向とは逆向きに走り去っていった。
彼らの姿が見えなくなったところで私は「大丈夫ですか?」と早乙女さんの元へ駆け寄った。
すると彼女は声を震わせて私の服を掴んだ。
「あ、あの、私親に黙ってここに来てて……助けていただいてなんなんですけど警察は困ります!」
「え、大丈夫ですよ。あれは嘘なので」
「う、そ……」
男たちも半信半疑だったあのはったりを信じてしまうなんて、早乙女さんは本当に純粋な人なんだろうな。
「それにしても何故ここに……」
「っ……そ、それは」
ここのいる理由を言及しようとしたとき、私のスマホの着信音が鳴り響く。
そういえば社長に場所を連絡するの、完璧に忘れていたな。
「あの、秘書さん?」
「……」
どうしよう。
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十分後、私の目の前には珍しく怒っている感情を表に出している社長と、そんな彼に見つめられて委縮している早乙女さんの姿があった。
「田崎さん、説明お願いできる?」
「……はい」
声低いな、そんなことを思いながらここに来るまでの経緯を彼に話した。
あの後、結局早乙女さんをどうするのか解決策が出なかった私は近くにあったカフェに彼女と二人で入り、そこへ社長のことを呼び出した。
早乙女さんがいることについては電話で先に告げていたのだが、実際に彼女の姿を見た社長は今まで見たことがないくらい怒りの感情を露わにしていた。こんなに怒ったところを見るのは社員がミスを彼に黙っていた時ぐらいだ。
「それで、俺たちを追いかけてきたのは事実なんだね?」
「……はい」
「どこでこの出張のことがバレたのかな」
「っ……全部私が悪いんです! 家の人は、私が言ったことに従って調べて……」
嘘も信じるし嘘を吐けない性格なんだな、この子。
見ると私の隣の席に座っている社長も呆れ果てた表情を浮かべていた。
私と向かい合う形で座っている早乙女さんは今日もゴスロリチックな服装に身を包み、赤色の生地に白いレースを可愛らしくあしらっている。
これ以上彼女を問い詰めるのは可哀そうだと思いながらも、ここにいる理由を聞かないと解放は出来ない。
「それで、どうして社長を追いかけてここまで来たんですか?」
「……私、普段から遊馬さんが仕事をしている姿を一目見たくて……でもこの間会社に行って怒られてしまったので、出張なら外にいる間は遠くから見れるかなと思って」
「だから朝からずっと?」
「まるでストーカーだね。過去に数回されたこともあるけど、流石にここまでついてくる子はいなかったよ」
「社長、話がややこしくなるので余計な話を差し込まないでください」
「ごめんごめん」
きっと彼のことが知りたいという純粋な思いから出た行動なのだろうが、先ほどのようなこともあるし、このまま彼女を野放しにしておくのは少し心配だ。
すると社長も同じ思いなのか、「田崎さん」と、
「一時間後の帰りの新幹線のチケット買っておいてくれる?」
「……かしこまりました」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
しかしそれを聞いた早乙女さんが慌てたように立ち上がった。
「そこまでしていただかなくても大丈夫です。それに私もう22歳になりましたし、大人なので」
「大人というのであれば俺を追いかけて大阪まで来るような非常識な行動は取らないと思うけど」
「っ……だ、だって遊馬さん私に何も話してくれないから。婚約者なのに、何も知らないから自分で探すしかなくて」
「……」
彼女の言葉を受けて黙った彼は深い溜息を吐き出すと「悪いけど」と温度の籠っていない声を漏らした。