花を愛でる。
「俺は君のことを婚約者だとは認めていないし、それにこの婚約自体にも反対だ。それを君は分かっているはずだよね?」
「そ、れは……」
婚約に反対している? それってどういうことだ。
二人の会話の内容に私が言及しようとしたのを察したのか、社長は先手を取るようにして「新幹線取ってくれる?」と私に指示を出した。
あの時に私に早乙女さんのことを触れられたくなさそうにしていたのはそのせい?
傷付いた表情を浮かべている早乙女さんに、彼は「最後に」と声を掛けた。
「君は確かにもう大人かもしれない。だけど早乙女家の一人娘であることの自覚を持った方がいい。もしここで君が危害をくわえられたとする、するとその責任は君が追いかけてきた俺に向けられるだろう」
「っ……」
「……君も本当は分かってるはずだよ。俺みたいな大人はやめておいた方がいい」
そう口にした彼の横側は、
「……」
何処か寂し気に見えた。
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先に出るよと店を後にした社長の代わり新幹線のチケットを買うと彼女を駅まで送り届ける。
その間彼の言葉を受けてか、ずっと無言でいた早乙女さんのことを気の毒に思っていたがそんな自分もどこか彼の言葉が引っかかっていた。
「それではお気をつけて」
改札の前で最後に声を掛けると彼女は私に向かって深く頭を下げた。
「何度もご迷惑をお掛けして本当にすみませんでした」
「いえ、私は……」
「婚約者だって思われてないのにここまで来て、私馬鹿みたいですよね」
今でも泣き出しそうな顔をして笑う早乙女さんにぎゅっと心臓を掴まれたように胸が苦しくなった。
「あれは……社長も少し口が過ぎたのではないかと。それに彼の考えてることが分からないという点において私も同意なので」
「秘書さんでも遊馬さんの考えていることって分からないんですか?」
「勿論です、あの思考を理解できる人間がいるのなら教えてほしいくらい」
そう正直な思いを告げると早乙女さんは一瞬ぽかんと口を開けていたが暫くして吹き出すように笑い出した。
その笑顔はやはり年齢に比べると幼いものだったが、初めて目にしたこともあって特別愛らしく思えた。