花を愛でる。
「……」
社長を待たせるわけにはいかないって部屋に着いて荷物を解く間もなく、簡単にメークを直して慌てて最上階にまで来たけれど。
予想通りというか安定というか、私はレストランの入り口の前で社長が現れるのを待たされている。
入口で待ち構えている店のスタッフの男性にそろそろ怪しまれそうなので早く来てほしいところなのだが、やはり先に彼を部屋まで迎えにいくのを優先した方が。
「花、お待たせ」
「社長、遅れるなら連絡……を……」
聞こえた声に顔を上げた私だったが、目の前に現れた社長の姿は先ほどまでのスーツではなく、また違ったクラシカルなスーツに身を包む、前髪を珍しくヘアワックスで掻き上げていた。
思いがけないその姿に思わず言葉を失ってしまう。
「ど……何ですか、それ?」
「ん? どれ?」
「いや、その格好……」
「あぁ、だって折角花と食事が取れるんだしそれなりの格好しとかないとでしょ」
いや、でも私はただの彼の秘書で接待相手でもないのにそこまで仕上げてくる必要性はどこにあるんだ。
そしてなんで私はこんなことでいちいち動揺しているんだ。本当に感情が表に出ない性格でよかったと心の底から思う。
というか、そんな気合を入れられても私は特に何も準備をしてこなかったので彼の隣に並ぶのも億劫になる。
「それじゃあ行こうか」
「っ……」
私の手を取った社長はそのままレストランの中へと脚を進め、待ち構えていたスタッフに名前を告げた。
非常にむず痒い思いをしている間に案内されたのは個室で、その窓からは大阪の夜景を見下ろすことが出来た。
このホテル自体が彼に合わせて有名な高級ホテルなこともあり、確か最上階のレストランはミシュランから星を貰っていたように記憶する。
私が怪訝な視線を向けたことに気付くと、彼は「大丈夫大丈夫」と、
「ここは俺が払うから。それならいいでしょ?」
「そういう問題では……そもそもこんなレストランに来るのであれば私以外の女性が相手である方がいいと思いますが」
「どうして? 俺は花と食事がしたくてここを選んだのに。ここに花のお母さんもいたら一番良かったんだけど」