花を愛でる。
それはまた今度かな、と席に着いた社長に「今更反抗しても無駄か」と諦め、その向かいの席に腰を下ろした。
どうやらフレンチ料理の店らしく、メニューに書かれているのは全てフランス語の料理名だった。
「料理分かる? なんなら俺が頼むのと一緒に」
「いえ、フランス語は大学で学びましたし、これくらいなら意味も理解出来ます」
「……優秀」
それに丁度検定を受けようと勉強中だったこともあり、そのお陰で彼の手を借りることなくコースの注文が出来た。
目の前から届く社長のニヤけた視線が多少鬱陶しく感じたが。
暫くして運ばれてきた白ワインが私たちのワイングラスに注がれる。
そういえばこの人、ワインはいける口だったっけ。
「明日に響かないように注意してください。大学での講義があるんですから」
「分かってるよ。そんなことより乾杯しようか」
「……」
今まで何度か食事に誘われてきたが全て断ってきていた為、こうして二人で向き合って食事を取るのは初めてで少しだけ新鮮に思えた。
こんな夜景が見えるレストランで、目の前に座るのは大財閥の御曹司。女性なら誰もが夢を見る状況に、今私はいる。
「(もし彼の秘書という立場じゃなかったら……)」
純粋にこの状況を楽しんでいた私も、どこかの世界線に存在しているのかもしれない。
「乾杯」
「……乾杯、です」
グラスを合わせた後、見よう見まねでワインを口に運ぶ。
あまり飲む機会がなかったからか、それとも緊張からか、白ワインの味は明確には分からなかった。
ふと顔を上げると私に向けて笑みを浮かべている社長と目が合った。
「なん、何ですか」
「いや? 楽しいなって」
「は?」
「怖い顔しないで」
それは貴方がおかしなことを口にするからだが?
「おかしいな、俺に口説かれて喜ばなかった女の子いなかったんだけど」
「……いつか本当に背中刺されますよ」
「こう見えて昔からそういう事件を避けてくるのは得意だったんだよね」
「自慢げに話さないでください」
そう冷たく突っ込むと彼はははっと吹き出すように笑った。
そして、
「やっぱり花と話してると楽しいなあ」
「……」
彼の言葉を受けて、私はまたワインを口に含むことしか出来なかった。