シークレットベイビー 弥勒と菜摘
✴︎



部屋はお隣さんなんて全くない、一件の家みたいだった。マンションじゃないのかもしれない⋯⋯ 。弥勒の部屋に着いて、どうせ広いんだろうと思いながら、扉を開けてもらって入ったら、違う意味でまた驚く。

ショールームみたいだった。
何にもない。

いや、あるんだけど、なんて言うか、生活感がない。磨き上げられた大理石の床の玄関は、靴が一足もない、エントランスも最初に置いたであろう置物しかない。

リビングは、家具しかない⋯⋯ 。


「何もないねー」


と弥勒も自分で言ってるけど、それはどうやら赤ちゃんの用意のことみたいだった。


「弥勒さん、ここ住んでるんですか? 」

「そうだよ。オレの自宅」


やっぱ、家だって。

でも広すぎて、がらーんてしてて、生活がなくて、寂しいかんじがする。

一子を抱いたまま、どこに座ろうかな、と迷う。
ソファーは立派すぎるし、何にもないし、部屋はどこまで何室あるのか分からないし、とりあえずこの台所近くの広い広い部屋の、キッチンの前の、何のスペースかわからないような囲まれたところに、


「あ、ここで。
全部いけます!
ほら、うちの部屋ぐらいですね〜」


と言ったら、すごく残念そうに


「そんな、勿体ない事、言うなよ」


と言われる。


「場所があるんだから。使って。
明日、いろいろ揃えよう? 」


と言ってから、菜摘をチラッと見た。


「それと君の服も」

「いえいえ、そんなことまで! 」


と慌てて言ったら、


「いや、せっかく女の子なのに勿体ないよ? 」


と残念そうに言われた。

この人。勿体ないって3回目だ⋯⋯ 。

1回目、一子にチャンスがあるのに教育が出来ないと勿体ないって言った。
2回目、せっかく広い場所があるのに使わないと勿体ないって。
3回目、菜摘は女の子なのに、変な服で女子として勿体ない⋯⋯ 。

この人にとって、何不自由もないはずなのに、この短い間にも3回も言った言葉。

元が十分に活かせない状態を言ってるようだ。持ってるものを、ちゃんと活かすべきだと。
それがきっとこの人の根本的な価値観なのかな、と思う。

そんな一面が見えてしまうと、何故か分からないけど、何だか心がキュッと痛くなった。


< 13 / 33 >

この作品をシェア

pagetop