シークレットベイビー 弥勒と菜摘
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菜摘が泣いているのは、一子の具合が悪いからだ、とみんな思ったみたいだった。


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弥勒が菜摘の顔色をみている。
いつも⋯⋯ 最初から必ず一子がいたから、2人きりはじめてだった。

そもそも一子がいるから出会って、一子がいるから一緒にいる2人。

弥勒と菜摘⋯⋯ 。

それでも夫婦なんだから、笑えて、心が痛くなる。
当たり前に先生に2人で挨拶して、弥勒に気遣われて、初めて彼の車の助手席に乗ったけど⋯⋯ 。

車の中は、いつもの弥勒の匂いだけじゃなかった。あの女性の香りがフッとして、菜摘は(あぁ⋯⋯ )と思った。

菜摘が乗り込む前に、体をかたくして、動きが止まったので、弥勒は、


「空港に停めていたんだ」


と説明してくれた。

的外れ⋯⋯ 。

すごく気遣いがある人なのに、変なところの気遣い。車なんてどうでもいい、彼が女性と一緒でさえなければ、それで良かったんだ。

別れ際に、ごねる彼女に、


「はい、じゃぁまた、サンフランシスコでね」


って言ってた。
サンフランシスコで会うんだ、と思った。

助手席で、菜摘が黙っているのも、少し泣いているのも、一子のためなんかじゃなかった。

近所だから、すぐ家に着いた。
それこそ、一子がいて外出は3回目ぐらいだから、まだマンションの事もよくわかっていない。駐車場から部屋専用の通路を初めて通って家に入った。


「飛行機に乗っていたから、すぐバスに入ろうかな」


と弥勒は言って部屋に消える。
菜摘は、ぼんやりと、初めて見るみたいにがらんとした部屋を見た。

でも、弥勒が1人で住んでいて、菜摘が最初に部屋に来た時より、なんだかんだ物が増えていた。
菜摘のスリッパが脱いだままになっていた。病院に行く時にあわててカバンを入れ替えたので、小さいカバンが転がっている。

ショールームみたいだったリビングには、ブランケットやおもちゃや、菜摘のカーディガン、リモコン、台所にはミルクの準備、菜摘のカップ⋯⋯ 。

このマンションにとめてと女性は言った。
来たことがあったんだろうか。


「そっちのバスにお湯ためといたから、ゆっくり入っておいで」


と、弥勒が声をかけてきた。気を遣ってくれる。


「なんか疲れたね? 」


と優しく聞いてくれる。
ぼんやりしている菜摘の肩をそっと抱きよせて、菜摘の部屋の方のバスルームに連れていって、はい、と中に入れられる。


「2人だと何か変な感じするね」


と弥勒がふっと優しく笑った。
それから、弥勒の方に体を向けられて、彼が大きな手で菜摘の顔を包んだ。親指で、菜摘の目の涙を拭いながら、


「一子が心配なの? 」


と聞いた。
しばらく、菜摘の目をじっと覗き込んで、口だけ歪めるみたいに笑って、菜摘をゆっくり離して、


「じゃ、後でね」


と弥勒は自分の部屋のバスルームに向かっていった。
彼に会ってから、最初からずっと一子をはさんでいた。

話があるって。

聞きたくない。

この先どうしようかなんて考えてもいなかった。
でも、子供のことじゃない。
2人の話だって事はわかる。

聞きたくない。

私達は一子を挟んで、別れられない。
でも、それとはべつに、弥勒は幸せに暮らすべきだ。
不本意な人、急についてきたおまけみたいな菜摘とじゃなくて。
彼女がいるなら。
愛する人がいるなら。

その人と今もいたいなら、そうすべきなんだろう。

海外に日帰りみたいに行ってまで会う。

思いつきもしなかったな。
想像もしなかったよ。

私はどうしたらいいんだろう⋯⋯ 。
「一子が心配なの? 」って。
的外れなことを言われて、いま、菜摘は一子の心配なんてしてない。
目の前に一子が初めていなくて、安全なところに一泊してるだけな状態で、何の心配もしてなかった。

一子とは血縁だし、今は自分の子供だし、この関係は離れたって変わらない。

菜摘は、自分と弥勒の事しか考えてなかった。

一緒にいないといけない。
だけど、もし、彼に別の恋人がいることを受け入れなければいけないなら⋯⋯ 。
彼のためにも、受け入れなきゃいけないのかな。


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