シークレットベイビー 弥勒と菜摘
✴︎
お風呂から上がって、弥勒の事を考えているのに、菜摘はちゃんと一子の用事を思い出した。
部屋から出て、まず、洗濯室に寄る。
ここには、海外製品の縦型の洗濯機とガスの乾燥機が2台ずつあり、いつでもアイロンが出来る広い台がシステムキッチンのように壁に取り付けられている。靴を洗うようなシンクや、足を洗うようなコーナーもある。
その部屋で一子の服を一着取った。他の服は大丈夫なのだが、この服だけはアイロンをした方が良いような生地だから、昼間に一子が寝た時に、アイロンを終わらせていた。
それから、その隣のストック品などを置いておく大きな部屋に入った。おしめのサイズがそろそろ次の大きさになるので、弥勒の買っておいてくれたおむつを確かめにきたのだ。
こんな時でも。
弥勒の事しか考えてなくても、やはりちゃんと一子の用事を思い出してここにいる自分に、どこかでホッとしている。
ふと物置を見渡したら、奥に真新しいバーベキューのセットが置いてあった。
ナイロンのかかったトングもある。
『離婚も嫌だから』
あの実家でのホームパーティーの日。
従兄弟の離婚を聞いて、トングを持ったままぼんやり立っていた弥勒。
両親も親戚も、何度も聞く離婚の話に傷ついて、結婚しないと決めていた弥勒。
『菜摘と離婚しない』
強い口調で弥勒は言った。
✴︎
「ここにいたの? 」
菜摘がバーベキューセットの横で、トングを持ったまま座り込んで泣いていたら、弥勒の声がした。
弥勒が見下ろして、苦笑した。
「マンション広すぎてね。
君と会おうとと思ったら、いつも理由がいるぐらいだ。
⋯⋯ 。
だから、理由が欲しいと思った」
と言いながら、かがんで、そっと菜摘をささえて、立ち上がらせてくれる。
確かにいつもなら。
一子がいるから菜摘も弥勒に会える。
一子がいないから理由がないし、と思ってたら、またポロポロ涙が出た。
「なんか、どうしたの?
トングがどうした? 」
と、菜摘の手から、そっとトングを取って元に戻した。
弥勒が菜摘の髪を撫でた。
それからゆっくりかがんで、菜摘の肩に顔を埋めた。
「君の匂いがする」と言った。
弥勒の髪と耳が菜摘の頬と耳にふわっとあたる。
優しく優しく、口調も、手も、肩寄せた顔も、すべて甘く優しかったから、余計に込み上げてきた。
悲しくて辛くて。
「こんなことしないで」
と菜摘が言った。
「どうして」
と弥勒が言った。
「だって」
✴︎
菜摘
「一子がいないのに」
弥勒
「一子がいないから」
✴︎
お風呂から上がって、弥勒の事を考えているのに、菜摘はちゃんと一子の用事を思い出した。
部屋から出て、まず、洗濯室に寄る。
ここには、海外製品の縦型の洗濯機とガスの乾燥機が2台ずつあり、いつでもアイロンが出来る広い台がシステムキッチンのように壁に取り付けられている。靴を洗うようなシンクや、足を洗うようなコーナーもある。
その部屋で一子の服を一着取った。他の服は大丈夫なのだが、この服だけはアイロンをした方が良いような生地だから、昼間に一子が寝た時に、アイロンを終わらせていた。
それから、その隣のストック品などを置いておく大きな部屋に入った。おしめのサイズがそろそろ次の大きさになるので、弥勒の買っておいてくれたおむつを確かめにきたのだ。
こんな時でも。
弥勒の事しか考えてなくても、やはりちゃんと一子の用事を思い出してここにいる自分に、どこかでホッとしている。
ふと物置を見渡したら、奥に真新しいバーベキューのセットが置いてあった。
ナイロンのかかったトングもある。
『離婚も嫌だから』
あの実家でのホームパーティーの日。
従兄弟の離婚を聞いて、トングを持ったままぼんやり立っていた弥勒。
両親も親戚も、何度も聞く離婚の話に傷ついて、結婚しないと決めていた弥勒。
『菜摘と離婚しない』
強い口調で弥勒は言った。
✴︎
「ここにいたの? 」
菜摘がバーベキューセットの横で、トングを持ったまま座り込んで泣いていたら、弥勒の声がした。
弥勒が見下ろして、苦笑した。
「マンション広すぎてね。
君と会おうとと思ったら、いつも理由がいるぐらいだ。
⋯⋯ 。
だから、理由が欲しいと思った」
と言いながら、かがんで、そっと菜摘をささえて、立ち上がらせてくれる。
確かにいつもなら。
一子がいるから菜摘も弥勒に会える。
一子がいないから理由がないし、と思ってたら、またポロポロ涙が出た。
「なんか、どうしたの?
トングがどうした? 」
と、菜摘の手から、そっとトングを取って元に戻した。
弥勒が菜摘の髪を撫でた。
それからゆっくりかがんで、菜摘の肩に顔を埋めた。
「君の匂いがする」と言った。
弥勒の髪と耳が菜摘の頬と耳にふわっとあたる。
優しく優しく、口調も、手も、肩寄せた顔も、すべて甘く優しかったから、余計に込み上げてきた。
悲しくて辛くて。
「こんなことしないで」
と菜摘が言った。
「どうして」
と弥勒が言った。
「だって」
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菜摘
「一子がいないのに」
弥勒
「一子がいないから」
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