シークレットベイビー 弥勒と菜摘
✴︎



ゴソゴソ

なんか、こんな本革のシートってね。
知らないから。

赤ちゃんの重みと私の全体重が吸い込まれて、シートと一体化してるような、柔らかくて、でも弾力のあるシート⋯⋯ 。
本革ってサラッとした手触りで、汗がベタベタしないというか、あたたかいのに同時にひんやり冷たい、夏も冬も最適、感触が全然違う。
しかも広々と悠々と座ってるんだけど、車の中なんだ⋯⋯ 。

顔を上げたら、ミラーがチラッて見えて、そこに映る綺麗な弥勒のおでこが見えて、生え際が男らしく素敵で、パッとまた目を伏せた。

彼の身のこなし、すごくスマートな人だ。
運動でもしてるのかな。

ハンドルを握る大きな手や手首、その手さばきに見惚れてしまう。
運転も、すごい上手。
確かな足取りで、自信を持って堂々と進む、本人そのままの運転ってかんじがする。
この人雑誌の中の人みたいだ、現実の人と思えない。

しかも、弥勒のまとう匂いが⋯⋯ 免税店みたいな、車の中に乗った瞬間、もちろん彼の匂いに全身包まれてしまった。
頭の先から足の先まで、隅々まで包まれて、私、洗濯中みたいな気分がする。

きっと車からおりたら、私も一子も彼と同じ匂いだよ⋯⋯ 。

ウニョウニョ、

と腕の中で赤ちゃんが動いて、はっ! と現実にかえる。

これでよかったんだろうか。

間違えてないだろうか⋯⋯ 。

知らない人の車に乗って、ついてきてしまって、よかったんだろうか。
こんな一瞬に人生を決めてしまって大丈夫だったんだろうか。

車の後ろには、一子の荷物と、菜摘の全荷物、まあ数袋しかない最低限だけど、を乗せてきた。

不安になって、数時間後前の話し合いを思い返した。


< 6 / 33 >

この作品をシェア

pagetop